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ミーヤのネット書庫

ゲーム『ファイナルファンタジータクティクス獅子戦争』(FINAL FANTASY TACTICS・The Zodiac Brave Story)の長編二次小説が中心です。恋愛あり、アクションあり、笑いあり涙あり!

外-《2》-② "参謀"ダーラボン 

《2》 疾風迅雷!

  ※金牛(タウロス)の刻(※午前八~十時頃)。
 ベオルブ家の別荘にて――。

 シドと、三角帽子を被った魔道士の少年を、バルバネスとエストレーラが門まで出迎えた。
 「いらっしゃい、シド君に……ボア君?魔法学者のダーラボン先生の所の?大っきくなったわねぇー。と、思ったら、まだまだ水増ししてただけ?」
 エストは魔道士の少年の帽子を取り、ふわふわと柔らかく拡がる薄茶色の髪を、押し潰すように撫でた。
 「姉上、失敬でしょう。子供じゃないんですよ」
バルバネスはエストの手から帽子を取り上げ、魔道士の少年に返す。
 魔道士の少年――ダーラボンは照れ笑いした。
「ははは……。実際、若輩ですよ。それより、ベオルブ家の綺羅星の姫(エストレーラ)様に覚えていていただけたなんて、光栄です」
 ほとんど大人の体格になっているバルバネスやシドに比べると、身長や肩幅も小さいし、顔立ちにも幼さが残っている。が、口調は落ち着いて大人びており、精神的には早熟なように見えた。
 「そりゃ、アレは忘れられないわよぉー。いつだったかしらね、宵の口に、湖の向こう岸でいーっぱい魔法の光が打ち上がって。水面にも映って、すっごく綺麗だったから、何かお祝いの花火だと思ったわ。そしたら、火事だとか実験失敗だとか、大騒ぎになって人が集まってくじゃない。アタクシもお見舞いに行ってみたら、やったのはお父様やお婆様じゃなくって、小っちゃい息子さんだっていうから……驚いたわぁ」
 バルバネスの脳裡にも、閃くものがあった。
「ああ、そういえば……。去年だったか、幼年学校の屋根を"流星雨(メテオ)"で穴だらけにした、あの時の?」
「そうです、それ、僕です。面目ない」
 頬を赤くして首をすくめたダーラボンの背中を、シドがパシッと叩いた。
「ある意味、才能が溢れすぎてるんだな。新しい魔法もすぐ覚えられるし、魔力の伸びも早い。制御(コントロール)が追い付かないくらいに。
 頭の回転も速いぞ。ただ、喋り出すとダラダラ長くてまどろっこしくなるんで、通称"ダラ公"だ」
 ダーラボンは三角帽子を握り締めた手を胸に当て、折り目正しく御辞儀をした。
「改めまして、ボーアダム=ダーラボンといいます。僕の方はずっと、ベオルブ先輩のご活躍ぶりを見聞きして、信奉者(ファン)だったんですけど、先輩にとってはほとんど『初めまして』ですよね……。
 この度は何だか、僕に、とっても重要な役目を任せて下さるそうで!僕に出来ることでしたら、何でも、是非とも、喜んで、させていただきますよ!」
「ああ、有難う。よく来てくれた。いや、やるかどうかは、話を聞いてから決めてくれていいんだ。ただ、話を打ち明けるだけでも、もう仲間(チーム)の一員のようなものになる。遠慮は要らない、僕のことは"バネス"でいい」
と、バルバネスは右手を差し出した。
 「いやあ……それは、ちょっと、畏れ多いです……」
 尻込みするダーラボンに、横からシドも言った。
「俺のことも"シド"と呼べって、前から言ってるだろう。"オルランドゥの若君"がヤンチャしてるとかいう噂が立つと、兄貴のことと紛らわしくて、迷惑かけちまう。"シド"の方がいい……というより、そうでないと困る」
「悪口なんて言いませんよ、僕、オルランドゥ先輩……のことも格好いいと思ってますよ。だけど……、じゃあ、わかりました。バネス先輩、シド先輩、よろしくお願いします!」
ダーラボンはバルバネスの手を握ると、帽子を持った方の手で頭を掻いた。
「あのー、では、僕の方も……。"ダラ公"でも構いませんけど、出来たら、名前の方で。ボアとかアダムとか、呼んでもらった方が嬉しいです」
「わかった。よろしくな、ボア」
バルバネスは、ダーラボンの手を強く握り返した。
 「はい!精一杯、頑張りますよ!」
「鈍くさいことやらかしたら、また"ダラ公"だぞ」
と、シドが小突いた。
 ダーラボンは三角帽子を被り直し、手袋も嵌め、張り切って、帯に差していた(ロッド)を抜いた。
「さあ、それで、何をすればいいんですか?準備万端、完全(フル)装備で来ましたよ」
長衣(ローブ)外套(マント)、帽子に靴に手袋など、全て、魔法効果のある品々で全身を固めている。
 「ああ、いや、魔法を使ってもらうのは後だ。まずは中に入って、これまでの話を説明しよう。外套(マント)や帽子は脱いでおけ、夏なのに暑苦しくないか?」
「……暑い、です、流石に」
 ダーラボンは外套(マント)と帽子、手袋を外して、韋駄鳥(チョコボ)の背に積んできた荷袋に詰め込んだ。その荷袋も、大きくて、はち切れそうに膨らんでいる。
 「持ちましょう」
と、バルバネスの斜め後ろに立っていた青年がダーラボンに近付いた。
 中肉中背、髪の色も畏国(イヴァリース)人にありがちな、特に明るくも暗くもない茶色で、顔立ちといい服装といい、地味で存在感の薄い青年だ。バルバネスと同い年かやや年上といった程度で、少年といっても良いのかもしれないが、目立たないもののよく見ればしっかりと隙が無く、一端の大人の雰囲気だ。
 「有難うございます、ええと……?」
 口数の少なそうな青年に代わって,バルバネスが紹介した。
「イスタークだ。イスターク=ウォルフォート。僕の子供の時分からの守り役にして、将来の副官、かな」
「ひゃ、偉い方でしたか」
ダーラボンは差し出しかけた荷袋を引っ込めたが、イスタークは微笑んで受け取った。
 「別に、偉くはありません。我が家は、士官学校(アカデミー)に通うほどの家柄でもないですし」
「イスタークは普段、ドラコニア城で、父上や城代の雑用を務めているんだ。その方が実力は付いているかもしれない。士官学校(アカデミー)に来れば多分、十指に入る成績上位者になっていたろうな」
「現場叩き上げ、のお人なんですねえ」
 バルバネスはシドを横目で睨みながら言った。
「まあ、正直言って、一緒に士官学校(アカデミー)に来てくれれば良かったのにと思うことは時々……いや、度々ある。イスタークさえいてくれるなら、シドなんぞを頼みの綱にしなくても済むのに、と思うことは」
「うわっ、"なんぞ"とはお言葉だな、ええおい。ついさっき、誰よりも心強い友だとか何とか、言ったばっかりじゃないか。前言撤回するのか?」
「撤回はせん。だが補足する。お前は確かに、非常時の問題解決(トラブルシューティング)にあたっては、この上なく頼りになる友だ。が、平時にあっては、わざわざ要らん波乱(トラブル)を巻き起こしてくれる、この上なく厄介な友だ!」
「いいだろ、楽しけりゃ」
「楽しんでいるのはお前の方だけだ。俺は頭が痛い」
 肩を組もうとするシドと、嫌そうに押し返すバルバネスを、イスタークは笑って見ている。
「私では、シド様の代わりは出来ません」
「つまりは、あれですね、それぞれ"無二の親友"と、"腹心の部下"ということですね」
と、ダーラボンは頷いた。
 エストが苦笑する。
「イスタークは、つい世話を焼きすぎるのよねぇ。シド君みたいに、ちょっとくらい負荷を掛けてくれた方が、いい鍛錬になるのに。
 今朝だって、迎えに来るのが随分早かったんじゃない?」
「そうですか?若が朝戻るとおっしゃるなら、朝食に間に合わぬはずがありません。何かあったものと判断して、急ぎ参ったのですが、見当違いでしょうか」
「あ。確かに、それは間違ってないわぁ」
 パンパン、とエストは手を叩いた。
「腹が減っては戦は出来ぬ、だわね。特にバネスは。さっ、中に入って。お茶を用意してあるわよ。まずは腹ごしらえして、それから、作戦会議しましょ!」
 バルバネスが手を挙げた。
「ちょっと待った。エスト姉上が仕切らないで下さい。総指揮官(リーダー)は僕ですよ。話はまず、僕とシド、ボア、イスタークの四人でします。姉上はその間、他の者達を近付けさせませんように」
「あら。アタクシをのけ者にするのぉ?つまんなーい」
と、エストはいじけた目付きで弟を見上げた。
 「つまる、つまらないという問題ではないでしょう。淑女(レディ)を危険に晒すわけには参りません」
「すっっっごく楽しそうなのに……」
「何も、楽しいことなぞありますか。いや、あったとして、命と天秤に掛ける価値がありますか?」
「あるわ!」
 間髪入れずに答えたエストを見て、シドが愉快そうに笑った。
「はははっ!流石、ベオルブ家の姫というべきか。気が合いそうですな、エスト殿!」
「……俺の姉上だぞ?」
シドがさり気なく伸ばした手を、バルバネスはすかさず、はたき落とした。
 「と、冗談はさておいて」
「本音にしか聞こえませんでしたが」
「……さておいて。バネス、わかってる?基本的に、お姉様達はもう、嫁ぎ先の側の人間なんだから。お父様お母様や叔父様達がそっくり是領(ゼラモニア)に出払ってる今、地元に残ってるベオルブ家の一族といったら、アナタ以外にはアタクシだけなのよ。アナタ自身で手が回らない何かが生じた時、ベオルブ家の責任と権限で指揮を執れるのは、他にアタクシ一人ってコト。そこのところは、了承済み(オッケー)?」
「……肝に銘じておきます」
 思わず縦皺の寄ったバルバネスの眉間を、エストはピンと指先で弾いた。
「ヤダ、何で"背水の陣"みたいな顔してるの、しっつれいねぇー。アナタに心配してほしいわけじゃないわよ。後ろの心配は要らないから、心置きなくお頑張りなさい、って言ってるの」
 エストは背伸びして、とっくに自分よりもずっと背の高い弟の頭を撫で、頬に口付けした。
「わかりました。姉上のお力が必要になった時は、遠慮なく頼ります」
「心配はしなくていいけど、遠慮はして。そりゃ、いざって時は力になるけど、そもそも、いざって事態になる前に周到な備えをしておくのが、責任者の務めよ。か弱い淑女(レディ)に助けられるなんて、騎士の恥よぉ?」
「エスト姉上はちっとも、か弱く見えません」
「見えないだけよぉ、本当は結構、無理してるの。いたわって」
「どっちですか、全く……」
 並んで歩くベオルブ家の姉弟と、大きな荷袋を抱えてその後を追うイスタークに続いて、シドとダーラボンも前庭を抜け、屋内に入る。
「はあー、バネス先輩も度胸があるけど、エストレーラ様も……。矢っ張り、ベオルブ家の姫様ですねえ」
「ああ、バネスの姉上でなければ、本気で口説いてるな。惜しい」
「シド先輩はいっつも冗談を本気で言うから、本気の本気と区別が付かないです」
「はっはっはっ!」

 湖からの涼風が吹き込む部屋で、バルバネスは、ダーラボンとイスタークにこれまでの経緯を語った。
 「……僕としては何より最初に、この箱を開封して中身を検めるべきだと思っている。迷っている間にも、また誰かが殺されるか、この箱が盗まれてしまうかもしれない。
 イスタークはどう思う?何か、開ける前に注意すべき点があるだろうか」
「そうですね……、私が気になるのは、入っていた物よりも、入っていなかった物を証明する方が難しい、ということです」
「というと?」
 イスタークは手文庫を手に取り、少し揺すってみた。
「持った感じでは、開けた途端に壊れてしまうほど脆い物は入っていないようです。"あった物"をそっくりそのまま、誰かに引き渡すことは出来るでしょう。ただ、始めから入ってもいないものを『入っているはずだ』と言い掛かりを付けられた場合などに、『無い物は無い』と証言出来るのは、最初に箱を開けた時立ち合った者だけです」
 シドが言う。
「だから、俺がここにいるんだ。あんたはベオルブ家の家臣だし、ボアだってガリオンヌ領の人間だ。もしも、何かラーグ家やベオルブ家の不利益になる物を隠したんじゃないか……という疑いを掛けられれば、晴らすのは難しい。だが、俺の家はゴルターナ公家の家臣だからな。……しかし一方で」
 シドはバルバネスの目を見て尋ねた。
「再度聞くが、いいんだろうな、バネス?本当に隠してしまいたい物が出てきた場合、しかもそれを隠すことが国王陛下なりゴルターナ公なりの御為にならぬとあれば、俺はオルランドゥ家の一員として見過ごすことは出来ない。お前と命のやり取りをすることになるとしても、だ」
 チン、とシドは剣の鍔を鳴らした。
 普段は何でも茶化してしまうシドだが、今この時ばかりは、冗談の入り込む余地は無い。
 ダーラボンが、ごくりと唾を飲んだ。
 「無論だ」
バルバネスも、シドの目をじっと見て答えた。
「悪事を為したのが、ラーグ家やベオルブ家の者だったとしても……万に一つ、我が父やソフィア姫の父上であっても、俺は秘匿したいとは思わん。そのことは、姫も御了承済みだ。お前こそ、いいのか、シド。もし逆に、ゴルターナ公の不利益になる物が出てきて、お前がそれを奪って消そうとでもすれば、俺は情け容赦はせんぞ」
「俺だって、主君といえども、悪事の尻拭いはしてやらんさ。それで御不興を買ったとしても、まあ、俺は次男だからな。この首が飛んだところで、親父や兄貴にまで累は及ぶまいよ。その点は、俺の方が気楽なぐらいか。心配要らん」
シドは、鼻先でフッと笑い飛ばした。
 「……。ゴルターナ"公妃"だったらどうする」
「ちょ、ちょっと待て。考えさせてくれ」
 シドは腕組みして、真剣に悩む。
「ううーむ……。悪事は明らかにするとして……。処刑させるぐらいだったら、連れて逃げる、か?その時もお前は止めるのか、バネス?」
 バルバネスは呆れて、首を振った。
「邪魔立てはせん。が、助太刀もしてやらんからな」
 ダーラボンはホッとして、詰めていた息を吐いた。
「つまり、あれですね。お互い、主君を悪事から守るために戦うつもりはあるけれど、主君の悪事を助長するつもりはない、ということですね」
 バルバネスは、ダーラボンにも尋ねた。
「ボアは、どうだ?何か気付いたことはあるか」
「ええと、ですねえ……こちらの護符のことですけど」
 布製の護符は下が尖った五角形をしており、吊り紐の付いた上辺に対して、布目が斜めになっている。
「正方形の布を斜め半分に切って、出来た三角形の尖った両端を切り落とすか、真ん中に向かって折り曲げると、こういう形になります。すると、同じ縦糸と横糸を使った、対になる護符は一組しか作れません。よく似せても、一本一本の糸の太さや色合いにはばらつきがありますからね。一種の割り符です。呂国(ロマンダ)の風習で、旅に出る人に一方を渡して、もう一方を残る家族が――大抵は、お母さんとか奥さんとかがですね、持って、安全祈願したりするんだそうですよ。そういう話、もうお聞きになりましたか?」
「いや」
「この織り模様にも、色々と意味があるらしくてですね。屋号とか家紋とか、まあ、行き倒れた時に……そうならないよう無事を祈るわけではありますけど、万一の時に、身許の証明になるような印にすることもあれば、旅の安全を守ってくれそうな何か……守護聖人や天使を表す聖字(ルーン)を象ったものとか、北極星や提灯(ランタン)を図案化したものとかに、することもあるそうです」
「これの模様の意味はわかるか?」
「"大天使アルテマ"の聖字(ルーン)、だと思います。割と定番(オーソドックス)ですね。細かい部分の意味とかは、ちょっと、図鑑で調べてみないことには、今すぐにはわかりませんけど……。それから、」
 ダーラボンは護符を触ってみるだけでなく、鼻に近付けて匂いを嗅いでみた。
「これ、海の水に浸かって汚れたのを、お洗濯したんじゃありませんか?何だか、お魚っぽいような潮の匂いと、石鹸の匂いがしてますよ。ほら、細かい砂とか、塩の粉とか、繊維の間に入り込んでますし。ちょっと、縮んで歪んだり、色が薄くなったりしてる所もありますよねえ」
「と、いうことは?」
呂国(ロマンダ)から、海を渡ってきた……んでしょうか。こっちの箱ともども。で、この箱なんですけど……ええと、ちょっとお待ち下さいよ……」
 ダーラボンは、持って来た大きな荷物の中から、工具箱のようなものを引っ張り出した。
「それは?」
「"魔法道具鑑定七点揃い(セット)"です!」
 手文庫のあちらこちらを魔法の拡大鏡(レンズ)で覗いてみたり、叩いて音叉のようなもので響きを確かめたり、金属片で挟んで数種類の微弱な魔法を流し、抵抗率や増幅率を測定したりなど、ひとしきり調べてから、ダーラボンは興奮気味に叫んだ。
「うわあ、矢っ張り!これ、この金属部分、永郷(エウレカ)合金じゃありませんか!」
 「ほう!」
と、すぐに感嘆の声を挙げたのはシドの方で、バルバネスは首を捻った。
「エウレカ合金……?」
「ちょっと見た感じは、超軽硬(ミシディア)合金に似てますけど。ええと、超軽硬(ミシディア)合金っていうのは金剛鋼(アダマンタイト)霊銀(ミスリル)が主要原料ですよね。永郷(エウレカ)合金は、金剛鋼(アダマンタイト)虹輝鋼(オリハルコン)に少量の星辰(ゾディアック)鉱を加えたものなんです。武器とか魔法道具の素材としては最高級の、幻の金属ですよ!金剛鋼(アダマンタイト)虹輝鋼(オリハルコン)も高純度に精製するのが難しい上に、星辰(ゾディアック)鉱なんて稀少(レア)中の激稀少金属(レアメタル)で、しかもそれらを均質に融合させるのは職人技というかもう神技と言ってよくてですね、古代でも、魔法鍛冶の聖地・エウレカぐらいでしか作れなかったそうですよ」
話すうち、ダーラボンの声が熱を帯び、次第に高く、早口になる。
「うわー、僕も生まれて初めて、実物に触りました……。耐久性能が凄いんです。ただ硬くて摩耗しない、錆びないとかいう程度(レベル)じゃなくてですね、ええと、形状記憶性能っていうんでしょうか、自己修復能力があるんですよ!鍛錬・成形する時に秘伝の魔法技術を使うことで、ちょっとやそっと曲がったり折れたり、錆びたり溶けたりしても、元の形に戻るんです。魔法のタネを練り込むっていうんでしょうかねえ、自動修復能力の他にも、半永久的に魔法効果を付与することが出来て、使い手の力を増幅したり、剣の攻撃に雷や炎の魔法を上乗せしたりとか……。究極魔剣(アルテマウェポン)とか、滅世剣(ラグナロク)とか、古代の伝説級の武器は、軒並み永郷(エウレカ)合金製らしいですよ。あっ、シド先輩の家の聖王剣(エクスカリバー)だって、そうでしたよね?」
 「らしいなあ。子供(ガキ)の頃、『岩をも断つ』っていうが本当かなと思って、親父の留守にこっそり試したことがある。確かに石も斬れたが、刃毀れさせちまって。やっべえー……と思って素知らぬふりして元の場所に戻しておいたら、いつの間にか直ってたんだ。いやあ、誰にもバレなくて助かった。はっはっはっ」
と、シドは気軽な調子で笑った。
 「お前……、伝家の名剣を何だと心得てる」
バルバネスはシドを睨んだ。
 シドは肩をすくめる。
「"名剣"だからって使い勝手がいいわけじゃないってのは、心得てるさ。半永久的といっても、段々魔法が弱まってるんだな。元々は、子供(ガキ)がちょっと下手に扱ったぐらいで欠けるようなもんじゃ無かったはずだが……。先祖の頃に比べると、回復するのに時間が掛かるらしい。自動修復は重宝だが、逆に、万が一不可逆的に壊れれば、現代の技術じゃあ二度と打ち直せない。だましだまし使ってるのさ。親父や兄貴が"聖剣技"鍛えてるのだって、なるべく接近戦に持ち込ませないためだ。
 実戦で"使える"剣としちゃあ、お前のとこの護法剣(ディフェンダー)の方が優秀なんじゃないか?超軽硬(ミシディア)合金なら、新しく作るのは無理でも、研いだり鍛え直したりは今でも出来る。氷狼ならぬ、雪豹に咬み砕かれても、ちゃんと復活するだろ」
 ベオルブ家に代々伝わり、現在はバルバネスの父・カルダックが所有する護法剣(ディフェンダー)は、この春、鴎国(オルダリーア)軍との戦いの中で打ち砕かれていた。"槍を持った雪豹"を家紋とするレナリオ伯に、攻撃と同時に武具を破壊する闘気技・"剛剣"の一つ、"冥界恐叫打"を浴びたのだった。
 普段のカルダックであれば、通常の剣技は勿論、闘気技であっても、剣を折られることはない。だがこの時は、勝ち戦の勢いに乗って、既に数十人の敵を討ち果たしていた。剣も傷んでいたろうし、何よりも、大敗を食い止めんとするレナリオ伯の決死の気迫が勝っていた、ということだろう。
 全体としては畏国(イヴァリース)軍の快勝であり、護法剣(ディフェンダー)を砕きカルダックに深手を負わせたレナリオ伯も、反撃はせず撤退に専念した。レナリオ伯を討ち取っておれば、大勝どころか完勝だったはずだ。畏国(イヴァリース)軍の騎士達は、カルダックの負傷を『要らぬ深追いをして失敗した』とは捉えておらず、むしろ『果敢に迅速な追撃を掛けたからこその、名誉の証』として、そこに至るまでの武功を讃えた。また一方、"敗軍の将"であるはずのレナリオ伯も、"不敗のベオルブ将軍"に一太刀を報いたことで大いに面目を施し、鴎国(オルダリーア)の人民に凱旋将軍の如く喝采で迎えられたという。
 カルダックは未だ是領(ゼラモニア)で療養中であり、護法剣(ディフェンダー)だけが修復のためドラコニア城の刀鍛冶の許に戻っている。両軍の語り草となった名勝負ではあるが、カルダックもレナリオ伯もとうに五十近く、再戦は息子達の世代に持ち越しだろう……との見方がもっぱらだ。
 「あっちは男ばっかり五人兄弟だってなー。頑張れよ」
「何を他人事のように……。お前だって、一人二人は引き受けることになるぞ」
 イスタークが話を戻した。
「それで、古代の技術でなければ作れない金属を使っている……というのは、この箱自体がとても古い物だということですか?」
「いえ。金属部分だけ、古代の物を再利用しているんでしょう。木製部分の経年劣化の具合からすると、骨董品(アンティーク)にはちがいありませんけど、せいぜい七王国時代の代物ですかねえ。
 この宝石……魔洸石の部分を観察すると、魔法で封印されたのはもっと最近、本当にここ数ヶ月の間だと思います」
「すると、中身自体も箱と同じくらい古い物だというわけでは、ないのでしょうか?」
「さあ、それはわかりません。もしかしたら、この箱に入った状態で、長いこと保管されてきたのかもしれないですけど……。だとしても、少なくとも、最近になって一度開けて中を見てから、また封印し直したことになりますね。
 まあ、見る人が見れば、この箱だけだって相当な値打ち物です。箱がそうなら、中身だってさぞかし……とも思うでしょう。それだけでも、盗みたくもなるかもしれません。ただ、すごそうなお宝だけど誰も本当は何だか知らない……わけではなくて、矢っ張り、封印した人は中身の真価を知ってると思いますよ」
 バルバネスが尋ねる。
「他に、わかることは?」
「あとは……、そうですねえ。一度魔法を解けば、僕にはもう封印の仕方はわかりません。この箱が封印されていたことを知っている人にとっては、勝手に開けたことが明白(バレバレ)になってしまいます。でも、一つ朗報といいますか、これなら僕でも完全に、跡形も無く魔法が解除出来そうなんですよ。つまり、開いた状態のこの箱を初めて見た人にとっては、これが魔法で封印されていたとはわからない、ってことです。つまりつまり、初めて見たはずなのに、この箱が最近まで封印されていたことを知っている人がいたら、すごーく怪しいですよ」
「成る程な」
 バルバネスが得心して頷いた一方で、ダーラボンは不意に首を傾げた。
「……?」
「どうした?」
「いえ……少し、気になったんですけど……現段階では、情報が足りません。変な先入観になるといけませんから、もうちょっと、確かになったら言います」
「そうか……」
「あとは、開けてみないことには何とも……。バネス先輩、シド先輩、開けちゃっていいですか?」
 バルバネスがシドを見ると、シドは大きく頷いた。
「いつでも、いいぞ」
「よし。ボア、お前も覚悟はいいか。開けて中を見れば、お前も命を狙われるかもしれんのだぞ」
 ダーラボンも、唇をキュッと噛んで頷いた。
「大丈夫です。やられる前に、こっちが犯人を捕まえる。そのために、開けるんでしょう」
それから、ふと気付いて、
「あ。イスタークさんは、いいですか?」
 バルバネスは目で笑いかけた。
「聞くまでもないよな」
「はい。私は、どこまでも若にお供します」
「と、いうことだ。やってくれ」
 ダーラボンは立ち上がり、三角帽子や外套(マント)、手袋等を身に付け直して、(ロッド)を構えた。
「……では!」
(ロッド)の先端を、卓子(テーブル)の上の手文庫に当て、呪文を唱える。
「魔道の業は諸刃の剣、奇しき力、彼の手に渡りて、我が身に返り来るもあると知れ……、"吸魔(アスピル)"!」
 手文庫の金具に付いた魔洸石(マテリア)から、ポウッと淡い魔法の光が飛び出し、(ロッド)を伝ってダーラボンの手に吸い込まれた。
 ダーラボンは、ふうっと一息吐く。
「……いけます。封印に必要な魔法は、魔力量としては大したことないみたいです。初級魔法程度ですね。これなら、一カ所につき一回ずつで、完全に解除出来ます」
 集中力を切らさぬよう、慎重に、ダーラボンは吸魔(アスピル)の魔法を六回繰り返して唱えた。手文庫に魔力が残っていないことを確認してから、どさりと椅子に腰を下ろす。
「……出来ましたー」
「よくやった。ご苦労」
と、バルバネスが早速、手文庫の蓋を開けようとすると、
「あああっ、ちょっと待って下さい!」
慌てて、ダーラボンは押し止めた。
 「魔法は解除しました。でも、物理的な(トラップ)を併用してるかもしれませんから。例えば、開けた瞬間に毒針が飛び出すとか……」
「では、私が」
と、代わりにイスタークが手を伸ばすと、
「いえ、いえいえ。もっと、いい方法があります」
 ダーラボンは大きな荷袋から、今度は、粘土製の人形(フィギュア)のようなものを二体取り出した。
「"身代わり土人形(ゴーレム)くん・六号小型版(スモールサイズ)"です!」
 体高※一(ケルター)(※約二十九・五センチメートル)ほどながら、鉄巨人の姿を細部まで忠実に再現しており、螺子(ビス)止めの小さな点の並びまで丹念に彫り込まれている。しかも、二体は微妙に意匠(デザイン)が違う。
 「ほう……、随分精密に作り込んでいるな。こういう身代わり人形は、どうせ壊れてしまうのだから、もっと大雑把な形をしているものだろう。何か、特殊な性能があるのか?」
バルバネスが感心して尋ねると、ダーラボンは照れ臭そうに頭を掻いた。
「いえ。性能は変わりません。外観は、ただの趣味というか、別の研究の一環です。いつか、鉄巨人の発掘と復元に携わるのが夢なんですよ。上手く出来たのは、色も塗って取っておいてあるんです!ちょっと失敗したのを、消耗品に回して……」
「これでも失敗作なのか?充分、よく出来ているように見えるぞ」
「いやあ、こっちは、腕が肘の上下で均衡(バランス)悪いですし、こっちは、首の後ろに変なひびが入っちゃってるんです」
 シドが呆れ顔で言う。
「こだわってるなー……。お前、本っ当にそういうの好きだなあ」
「大好きなんですよー!機械兵(メタルヒットマン)とか、魔神像(アレキサンダー)とかも、好い形してると思いませんか?」
と、ダーラボンはバルバネスに同意を求めた。
「そうなのか?僕は、古代の魔法機械には詳しくないんで、よくわからないな」
「そ、そうですか……」
 少し寂しそうな顔をしたダーラボンだったが、気を取り直して、(ロッド)を振りかざした。
土人形(ゴーレム)くん、起動!」
 二体の土人形(ゴーレム)はぎこちなく卓子(テーブル)の上を歩き、手文庫の蓋を両端から掴んで、ゆっくりと持ち上げた。
 「……。何も、起こりませんねえ」
そのまま、土人形(ゴーレム)達はそろそろと横歩きに蓋を持ち運び、下に置くと、コトリと止まった。
 「色々、(トラップ)解除工具(ツール)も持って来たんですけど……」
ダーラボンは拍子抜けしている。
 「使わないに越したことはないだろう。さて……、」
 四人の若者達は、額を集め、箱の中を覗き込んだ。

 ダーラボンが、手袋を嵌めた手で、箱に入っていた物を一つ一つ慎重に取り出し、卓子(テーブル)の上に並べていった。
 まず最初は、羊皮紙の束を紐で綴じたもの。表紙は無く、走り書きのような細かい文字がびっしりと書き連ねてあり、塗り潰して訂正した箇所や、余白に付け足した書き込み等もある。本ではなく、個人的な覚え書きだろう。
 次に、布製の書類挟み(ファイル)が二冊。中にはそれぞれ、薄い冊子が複数冊収められているようだ。外側の厚手の織物は、色や図案は異なるが、どちらも呂国(ロマンダ)様式の唐草模様である。
 そして一番下に、分厚い羊皮紙の本。これだけで、手文庫の内寸の半分ほどを占めている。美しく彩色された表紙に、金文字で書名らしきものが彫り塗りされている。
呂国(ロマンダ)語、か?」
「それも、ちょっと綴り方が古風ですねえ。ええと……」
と、ダーラボンが読み上げた。
 「『アジョラ=グレバドスの言行に関する報告書 対訳』……?!」
口に出したダーラボン自身と、それを聞いたイスタークが、ハッと息を呑んだ。
「"ゲルモニーク聖典"……!!」
「……ですか、矢張り!?」
 バルバネスとシドも眉をひそめた。
「何だって?!」
「ええと、ですね。いわゆる"ゲルモニーク聖典"と俗称されるものは、実際のところ、信徒向けに書かれた伝記や説教集のようなものじゃないらしいんです。ゲルモニークは元々、(ユードラ)帝国軍の魔学研究機関に所属していて、その仕事に嫌気がさしてアジョラに従うようになった、でも結局は古巣に戻ろうとしてアジョラを裏切った……と思われてますけど。実は、そもそも(ユードラ)帝国の調査員というか、監視員としてアジョラの許に派遣されていて、任務を終えて戻った、その報告から上層部がアジョラを危険だと判断して排除に踏み切った……と、そういうことだと読み取れるそうです。"ゲルモニーク聖典"に書かれていることが事実だとすれば」
と、ダーラボンは説明した。
 「僕も噂に聞いただけで、実物を見たことなんてありませんよ。禁書中の禁書ですからね……。"聖典"と呼ばれてはいますが、実質は、淡々と無味乾燥に事実を書き留めた"報告書"なんだそうです。それだけに、神格化・伝説化されていない、生身の聖アジョラのお姿を最も詳細に記した一次資料だと、言われています……」
 ダーラボンは、羊皮紙の本の(ページ)をパラパラとめくった。
「これは……すごい、です……。抜け落ちが、ほとんど無さそうですよ。"ゲルモニーク聖典"は歴史上、少なくとも二回、抹殺されかけてましてですね。一回目はグレバドス教が(ユードラ)帝国の国教に定められた時、二回目は呂国(ロマンダ)旧教派がミュロンド正教派の傘下に入った時です。原本は勿論、写本も、見つかり次第焼き捨てられた時代があったんです……。今は、原本は全部ミュロンド法皇庁の図書館に集められていますけど、欠けている部分が多いらしくて……、」
 そこまで言って、ハッと気付き、
「ま、まさか……!」
と、慌てて布製の書類挟み(ファイル)を開いた。
 ごく薄い冊子が二十冊余りも包まれている。表紙に印刷された文字は、古代雄帝国(ユードラ)文字だ。
「これ……、雄帝国(ユードラ)時代の原本ですよ!うわあ!!」
 ダーラボンは、表紙に印字された通し番号を確かめた。
「一番から、二十六番まで揃ってます。多分、これで全部でしょう」
 シドが訝った。
「ちょっと待て。"原本"っていうからには、一冊限りだろう。法皇庁にあるのは、実は写本だってことか?」
「いえ、"原本"が複数存在するんです。古代の技術で、小さな金属板に文章や絵を記録しておくと、機械を使って簡単に複製(コピー)出来たんだとか。一(ページ)複写するのに十(カウント)もかからなかったそうです」
「版画みたいなものか」
「まあ、それに近いものですかねえ。本当の"原本"は、その金属板ってことになるんでしょうけど、それこそ今となっては何処に行ったかもわからないし、出てきたって、古代の機械が無い限り、何が書いてあるかさっぱり読み取れないはずですよ」
 バルバネスも、信じられない様子で尋ねた。
「千年以上も昔の物にしては、随分と綺麗だな。かえって、訳本よりも新しそうに見える」
「長期保存用の、上等な鉱物紙(ストーンペーパー)でしょう。こういうのは、古代文明時代の物の方が遥かに品質が良いですから。水でふやけたり、字がにじんだりもしない。ちょっとやそっとじゃ破れないし、強化金剛鋼(アダマンタイト)の鋏でもないと切れないんですよ。普通の、鋼や霊銀(ミスリル)なんかじゃ、小刀(ナイフ)の方が刃毀れするほどで……。勿論、虫に食われたりなんかしませんし。火にも強いです。薪や蝋燭の火ぐらいじゃ焦げもしないですよ。上級炎撃魔法(ファイガ)の高温でも耐えられます。灰にしようと思ったら、最上級炎撃魔法(ファイジャ)とか、灼熱(フレア)とか……あるいは、天竜(バハムート)召喚とか、究極魔法(アルテマ)とかでも使わないと、無理じゃないですか。どれも、"失われた魔法"ですけど」
「現代の技では滅する方が難しい、か」
「これ、きっと、公文書館か何かの保存資料ですよ。いくら古代の紙が高品質といっても、普段使いの物なら、百年二百年の間には劣化もします。完全版の原本なんて……現存する中では、唯一無二かもしれませんねえ。……すごい」
 シドが頭の後ろで手を組み、天井を見上げた。
「すっげえもん出てきたなあー」
「ああ……。それで、残る二冊は……?」
 バルバネスは、もう一つの書類挟み(ファイル)を開いた。
 中から出てきたのは、矢張り古代の鉱物紙(ストーンペーパー)製らしき、帳面(ノート)が三冊。耐久性は強いはずだが、かなり歪んだり汚れたりしている。表紙には、題名や著者名のようなものは書かれていないが、年月日らしき数字が手書きで記されていた。
 「日誌……のようなものか?」
バルバネスは中の(ページ)をめくって見た。
 少しずつ、何回にも分けて書かれたもののようだ。字の大きさや濃さもまちまちだし、斜めに殴り書きした箇所もあれば、後から余白に書き足した跡もある。数式や地図、何かの専門記号らしきものも書き込まれていた。
 「……読めん」
「うん、ひどい金釘流だな。お前といい勝負だ」
横から覗き込んで口を挟んだシドの頭を、バルバネスはこつんと叩いた。
「余計な世話だ。そういう意味じゃない。……これは、古典雄帝国(ユードラ)語、なのか?」
 聖句、聖歌等は古典雄帝国(ユードラ)語で残っているものも多いため、教養ある騎士の子弟ならば、多少の古典語の読み書きは出来るものだ。が、見たことも無い単語や、そもそも雄帝国(ユードラ)文字ではない部分も多い。
 ダーラボンが帳面(ノート)に顔を近付ける。
「ええーと……多分、雄帝国(ユードラ)文字でわかりにくいところは、古代蘭国(ランベリー)語とか瑠国(ルザリア)語の音を、聞いたまま雄帝国(ユードラ)文字で仮表記してあるんだと思います。それから、こっちの見慣れない文字は……古代ロンカ文字……いや、永郷(エウレカ)文字の簡体字かな?辺境の少数民族……の出身だったんでしょうかねえ、これを書いた人は。恐らく、こっちの方が母語なんですよ。急いで走り書きした所とか、思い付いてちょこっと書き足した、みたいな所とか、こっちの字になってます」
 イスタークが、始めに一番上に載っていた羊皮紙の束を手に取った。
「すると、これは、そちらの手書き帳面(ノート)の方の翻訳でしょうか」
「読めるか?」
 イスタークはバルバネスよりも語学が得意で、呂国(ロマンダ)語であれば同時通訳も出来るほどなのだが……、
「現代語ではありませんね。多少……意味が拾える所があるか、どうか……」
 すると、ダーラボンが手を伸ばした。
「貸して下さい。魔道士なら、かえって、現代呂国(ロマンダ)語はわからなくても、旧教伝来時代ぐらいの古い呂国(ロマンダ)語は読めることもあります。魔道書で見慣れてますから。あ、読めるって言っても、発音は知りませんよ。意味がわかるってことで……ええと……」
 ダーラボンは、上から一枚ずつ(ページ)をめくっていった。
「ううーん……。翻訳した人も、大分苦戦してますねえ。方言とか、俗語とか、外国語とか、色々混じってるみたいで……注釈がいっぱいです。全然、未完成の、穴だらけですよ。しかも、それを翻訳した古い呂国(ロマンダ)語で、僕に読める部分が少ないし……。あ、この(ページ)なら、何とかいけそうです」
と、指で一行ずつ辿りながら、ゆっくりと読み上げる。
 「あー……『午後一時三十五分、水位、七と四分の三』……括弧、単位わからず……と、これは翻訳者さんの注ですね。『アジョラ、ロルカ、私、村の男八人で……東の岸を、崩し始める。五十分、水位、八と二分の一。ファラ教聖職者、三人が来て、言う。川が……満ち足りる……いや、溢れる?ことはない、家に帰り、祈れ』」
「ロルカ伝の、『祈るより堤を開け』の章ですか」
イスタークが気付いて言った。
 バルバネスも思い出した。
「待てよ?確かその話、ロルカでないなら、"私"というのは……あ、いや、続けてくれ」
「『アジョラは……怒鳴った』」
「怒鳴った?」
「そう書いてあるんですよ。えー……、」
 ダーラボンは息を吸い、言葉を飲み込んだ。
「どうした」
「……『バカ、祈っている時間があるか』」
 バルバネス、シド、イスタークの三人が、唖然としてダーラボンの顔を見た。
「え!?」
「聖アジョラのお言葉……か?」
「書いてある通りに、読んだだけですよ!僕だって、ちょっと……いえ、かなり、信じがたいですけど……」
「そ、そうだな。……続きを」
 ダーラボンは一つ深呼吸してから、読み進める。
「『今、先に、水を流せば……失うものは、最少になる。何もせず、待てば……岸が壊れるまで、待てば、村が沈む、全て。力のある、男達で、切り……岸の一部を、切り崩し……、女性、子供、老人は逃がせ、高い所に。聖職者達、また言う……川が溢れることはない。愚かなのは、お前達だ。岸を、壊す者には……天罰が、あるだろう。アジョラは……忙しく……いや、焦って、とか、苛立って、ですか……最も年長の聖職者を、土手の上に引き……連れて、行った。この空の暗さを見ろ。川の濁りを見ろ。滝のような、雨の音を聞け。前兆は、明らかだ。あなた方は、あなた方の麦が水に流されるよりも、あなた方の信者が流されることを、望むのか』」
 ダーラボンは話を区切って、説明を挟んだ。
「ええーと、ですね。ここで地図と注釈が書き込まれています。文章は、元の帳面(ノート)に書いてあったのか、翻訳者さんが書いたのか、ちょっとわかりませんけど……。要するに、彼らが岸を一部切り崩して水を流そうとしている先に、ファラ教寺院と、寺院の荘園があったらしいです。っていうか、元々、いざっていう時に水を逃がすために、水路と遊水池が作ってあったんでしょうか。ただ土手を切り崩そうとしたのじゃなく、水門もあったのかも……。村を守るために、寺院がその管理を担っていたはずなのに、聖職者達が収穫物を惜しんで、手をこまねいていたんですねえ。それで、使徒達と村人達が許可を待たずに放水の準備を始めたと……そういう状況らしいです」
 バルバネスは頷き、翻訳の続きを促した。
 「『経文を、何度も唱え、祭壇に、供物の山を捧げれば……自然が、望んだ通りになると、予想……いや、期待か……するのは、人の驕りだ。天地が、下される……兆しを、見ず、聞かず、感じようとせず……何も備えず、災いを受ける、それこそを天罰と呼ぶ。あなた方は帰り、祈って嵐が止まると思うなら祈れ、呪って我々が止まると思うなら呪え。我々は、人に出来る限りまで……のことをする。……十五人の男達が、作業に加わる。他の村人は、サリエルが遠くする……避難させる、ですか。午後二時二十分、水位、十と四分の一。アジョラは村の男達を遠ざけ、水竜(リヴァイアサン)に変身し……、』」
「"に、変身し"?"を、召喚し"ではないのか?」
「"変身し"で間違いないです、訳としては。これは、恐らく"憑依召喚"のことでしょう」
「"憑依召喚"?」
「普通の召喚魔法は、杖の先の宝石とかを依り代にして、ごく短い時間だけ……技を一回使う間くらいだけ、精霊や天使、悪魔の力をこの世に顕します。でも、憑依召喚というのは、術者自身の肉体を依り代として、もっと長い時間、もっと自在に、この世ならぬ存在の力を引き出せる術だそうです。別名、"神降ろし"とも言います。すっごく強力ですけど、すっごく危険な技でもあったようで……。"何者か"を憑依させている間、術者はそのものか、そのものと融合したような姿になるらしいんですけど……憑依が解けずに、中途半端に融合した状態で暴走しちゃったりとか。あるいは、姿形は元通りに戻っても、魂の方を乗っ取られて人格崩壊したりとか、悲惨な事故がいっぱいあったみたいです。グレバドス教が(ユードラ)帝国の国教になった時、禁術指定されてますけど、それ以前からもう、あんまりにも危険すぎて、手を出す人はほとんどいなかったとか」
「聖アジョラが、その禁術を……」
「……使えたんじゃないか、っていう説を裏付ける史料になりますよ、これは。ええと、『……水竜(リヴァイアサン)に変身し、遂に、堤を砕く。そして、水に沈む寺院から、ファラ教聖職者達を運び出した。彼らは、恐れおののき、呪いの言葉を唱えた。村人達が、聖職者達を……再び打ち負かそうとする?あ、濁流に……突き落とそうとする、のを、アジョラが制止した。村人達もまた、アジョラを恐れ、遠のいた。ロルカが村人達を、叱責する、のを、アジョラが諫めて言う。……人は、人に出来ることをすれば良いのだ』……以上、僕に読めるのはこのくらいです」
 バルバネスはこめかみを押さえた。
「待て。……おい、ちょっと待て。ロルカでも、サリエルでもないなら、この場面でアジョラの側にいたのは……まさか、この帳面(ノート)の記録者というのは……!?」
 イスタークが言葉を継ぐ。
「……"裏切りの使徒"、ジューダス=ゲルモニーク……」
 ダーラボンが、更に言葉を引き取った。
「……ですかねえ、矢っ張り。つまりこれは、あれです。ゲルモニーク聖典の原本の、また原本というか。報告書にまとめる前の、生の記録(データ)……なんでしょうね」
 シドが疑う。
「……本当に、本物か?」
「偽物にしては、手が込みすぎてますよ。ゲルモニークは、"魔剣士の隠れ里"ファルガバードの出身と言われています。ファルガバードの住人は、"魔法鍛冶の聖地"エウレカの人々と故郷(ルーツ)を同じくするそうですから、永郷(エウレカ)文字を使い続けていても不自然はありません。逆に、誰がわざわざ、当時ですら絶滅寸前の古代文字を研究して、それらしい偽書を作る必要があるでしょう?しかも、よく見て下さい、顔料(インク)が手で擦れた跡が幾つもありますよ。これを書いた人は左利きなんです。聖アジョラの"左の魔剣"と呼ばれたように、ゲルモニークが左利きだったことと、符合します」
 バルバネスもダーラボンに同意した。
「それに、内容が真に迫っている。正直言って、僕は、ロルカ伝のこの話は腑に落ちなかった。だが、ここに書かれているのが事実だとすれば、積年の謎は氷解する」
イスタークが、聖者に憚りつつも言う。
「そうですね。恐らく、ロルカはアジョラの聖性を強調するために、不都合な部分を伏せたのでしょう。そのために、矛盾や齟齬が生じた、ということですか」
「ああ。ロルカの書きぶりでは、アジョラは"神の子"だからこそ、常人にはわからぬ天のお告げを聞くことが出来た。奇跡の力で村人達を救い、頑迷なファラ教司祭達には神罰を下した……という風に見える。だが、それでは『人として出来ることを為す』といっても、ただの人間である村人達や使徒達に何が出来たんだ、ということになる。アジョラを信じて祈るよりほか無いじゃないか、それなら、ファラ教司祭達が帰って神に祈れと言ったのと何が違う、とな。しかし、ここに記録されているのは、何ら神秘的な話ではない。"天のしるし"というのは、誰にでも……とまでは言わないが、見る者が見ればわかる、天気の変化のことだ。精霊や天使は登場しない。そして、アジョラお一人で川の流れを変えたわけでも無かったんだ。危険な最後の一押しは、アジョラが責任持ってお一人で担ったにせよ、そこに至るまでは村人達と一緒に泥にまみれて、地道に土木作業していたんだな」
 シドも頷いた。
「ふうむ。怒鳴ったとか、苛立ったとか、随分と人間臭いが、その方がずっと現実味(リアリティー)がある。取り澄まして『愚かな所業である』とか説教垂れるより、ただただ『バカ、それどころじゃない!』って叫び出したくなる状況だよなあ」
「ロルカが何を怒ったのか、それに、最後のアジョラのお言葉も、意味がわからなかった。ロルカ伝では、ファラ教司祭達は神に捧げる言葉を唱えた……というような書き方で、祝福とも呪いとも、どちらにも読める。まあ、子供の頃聞いた講義では、司祭達はアジョラの神通力に恐れ入ってひれ伏した、という解説だったが。しかし、司祭達が大いに反省して畏まっているならば、村人達は『溺れ死ね』と思うほど憤激したろうか?だからこそ『もう許してやれ』とアジョラがなだめた、のであれば、ロルカはアジョラと同時に村人達を静めようとしただろう。アジョラが止めた、そのお言葉を聞いて村人達もすっかり平服したなら、何故その後からロルカが重ねて"叱責した"んだ……しかも、穏やかに"教え諭す"のではなく。そこも、"神の子"アジョラが既に叱ったのだから、"人の子"であるロルカが出しゃばるな……とか。あるいは、神ならぬ人の身の司祭達に未来が見通せなかったのは仕方ない、彼らなりに一生懸命だったのだろうと、庇われた……とかいう説明が為されていたが、どうもしっくりこなかった」
 しかし、今のバルバネスには、これまで思いもよらなかった光景が、生々しい情感を伴って目に浮かぶ。
「その、"憑依召喚"の話が事実であるなら、何の不思議も無い。司祭達も村人達も、神々しい奇跡に感服したのではなく、単に、異形の姿になったアジョラを怖がった……ということだろう。それでロルカは、『命を救われたのに恩知らずめ』という風に怒ったのだろうな。そして、アジョラのお言葉は……"人"というのは、ロルカや司祭達、村人達のことを指しておっしゃったのではなかったんだ。身を削って護った者達に忌み嫌われる、それでもいいと……"人"として出来る限りのことをする、と、ご自身の覚悟を述べられたのだな。……そう考えるのが自然だ」
 バルバネスは溜め息を吐いた。
「ここに記されているアジョラは、天の高みから人を導く、完全無欠な"神の子"じゃない。人々と共に汗を流し、感情的に怒りもし、危険な禁術の影をまとってさえいる……"人の子"だ。だが、美的でも劇的でもない、ほんの簡潔な記述の中にも、アジョラの息遣いが生き生きと感じられる。かえって、格調高く整えられたロルカ伝の文章からよりも、アジョラのお姿が身近に、しかも一層尊く胸に迫ってくるようだ……。この記録は真実であると、僕は確信する」

 手文庫の内容物が想像以上の貴重品だったことに圧倒されて、四人はしばし、押し黙った。
 やがて、最初に口を開いたのはシドだ。
「……で?一体、どこのどいつが、何の目的で、こんな御大層なものを手に入れようとしてるんだ?」
「ううーむ……」
バルバネスには見当も付かない。
 ダーラボンが手を挙げ、指を一本だけ立てて掌を握った。
「まず、真っ先に考えられるのは、グレバドス教会の関係者ですよね。法皇様とか、大司教様とか。ゲルモニーク聖典は、聖アジョラの真実のお姿を知るための、大事な資料ですから」
「それはそうだ。しかし、当然すぎて、隠れる必要がないだろう。法皇庁ならば、正当な所有権があるのだから、誰が相手だろうが堂々と使者を派遣して受け取りに行けばいい」
「そうとも限りませんよ。グレバドス教会は、ミュロンド正教派だけじゃありません。東方に広まっている覇帝国(パラメキア)正教派の方が、信者数としては優勢だという説もあります。古代に異端として追放された密教系会派なんかも、原典の教えに忠実であろうとして、古写本とかを熱心に蒐集してますし。何より、呂国(ロマンダ)旧教派があります。今でこそ、ミュロンド正教派の指導下に収まってますけど、再分離・独立の可能性もなきにしもあらずですからね。特に、呂国(ロマンダ)との開戦が噂される昨今では」
「成る程な。真っ正面から所有権を主張すれば、宗派間抗争に発展しかねない。それが世俗の外交に影響する危惧もある。……となれば、秘密裡に、と考えてもおかしくないわけだ」
「はい。次に、異教勢力」
 ダーラボンは二本目の指を立てる。
「ゲルモニーク聖典というのは、つまり、いわば"歴史遺産的大暴露本"です。ここには、神格化・伝説化されていない、"人の子"アジョラのお姿が描かれています。真実を知って、バネス先輩のように畏敬の念を深める人もいるかもしれませんけど、まあ、がっかりして信心が薄れる人もいるでしょう。……その方が多数派かもしれません。異教勢力が、グレバドス教会の言うことなんて嘘っぱちだぞと、吹聴するために……ってことです」
「大いに、あり得るな。鴎国(オルダリーア)人は基本的にファラ教徒だ。グレバドス教の権威が失墜すれば、我ら畏国(イヴァリース)軍の士気は下がり、彼らの側は上がるだろう。今この時期にそんなことをされれば、一時休戦交渉さえ決裂しかねない」
 バルバネスが言うと、シドが疑問を呈した。
「んんー?しかし、鴎国(オルダリーア)の仕業なら、リオファネスから入って西のガリオンヌ領に持ち込むより、東の是領(ゼラモニア)なり本国なりに向かうんじゃないのか?」
「わからんぞ。畏国(イヴァリース)内部から噂を広めて、切り崩そうとするやもしれん」
「それもあるか。特に、レナリオ伯の宿敵と思われてる、お前の親父さんの領地から手始めに……とかなあ」
 ダーラボンが付け足した。
「ファラ教じゃなくて、紗国(ペシャ)塔国(トゥルギース)のアフラー教勢力ってことも考えられますね。畏国(イヴァリース)紗国(ペシャ)の同盟関係……というより従属関係に不満を持って、ということです。陸路でドーターやウォージリスの港まで運んで、そこからまた船で南東に向かうつもりだったかも」
 シドが三本指を立てた。
「おっ、わかったぞ。要するに、こいつはグレバドス教会にとっての"弱味"なんだろう。だったら、三つ目は世俗権力だ。あっちこっちで、枢機卿や大修道院の領地が拡がりすぎて、目の上の瘤になってたりするよな。都合悪いことバラされたくなけりゃ、言うことききやがれと」
「そうですけど……教会を脅すなんてことを考え付くのは、よっぽどの有力者ですよ。でなければ、異端審問で有罪にされて、あっさり返り討ちでしょう」
「国王陛下か、ラーグ公か……あるいは矢張り、父上である可能性も否定出来んのか?」
バルバネスが言うと、イスタークが立ち上がった。
「いえ、それはあり得ません!大殿がそのような謀を企てるなど……仮にあったとしても、何も知らぬ一般人を利用するなど、考えられません。必ず、最初から最後まで、信の置ける配下にお任せになるはずです」
 バルバネスは手振りで、イスタークに座るよう促した。
「その配下が、更に別の誰かを利用することも考えられる。忠義は有難いが、予断は避けることだな、イスターク。まずは、あらゆる可能性を検討すべきだ」
「は、はい……。気を付けます」
イスタークは顔を赤らめ、椅子に座り直した。
 「他には?」
「ええーと、四つ目に考えられるとすれば、魔学研究者ですかねえ。ゲルモニーク聖典には、今は失われた古代の魔法に関する記述も色々あるはずです。召喚魔法や青魔法、"最上級(ジャ)"魔法、究極魔法(アルテマ)完全回復(フルケア)時空転移(デジョン)など……。聖アジョラや使徒達だからこそ使いこなせたと思われている魔法が、実は現代の一般人にも使えるとしたら、魅力的な研究課題(テーマ)ですよね。純粋に知的好奇心から、かもしれませんし、軍事研究として、という場合もあるでしょう」
 ダーラボンに続き、イスタークも発言した。
「五つ目の可能性として、商人もあり得るのではないでしょうか。ここまで挙がった様々な理由から、何としてもゲルモニーク聖典を入手したいと望む者ならば、金に糸目は付けないでしょう」
「そうだな。それに、最初にボアが、外側の箱だけでも相当な値打ち物だと言ったろう。中身が何か知らぬまま、取りあえず骨董品として確保したという可能性も、矢張り排除すべきではないのかもしれない。中の荷の稀少性を考えれば、素人に一人で運ばせるのは無防備すぎないか?」
 シドが手文庫を手に取り、矯めつ眇めつ眺めた。
「かもな。最初にこれを手に入れようとした奴は、価値に気付いてなかったのかもしれない。だが、こうなっては、最初に誰が何の目的で……というのは、あまり意味が無いか。正体を知ってしまえば、こいつには色んな使い途がある。手にした奴が次々と、起屍鬼(ゾンビ)感染のように、欲の亡者に成り果てかねない代物だ」
「……。お前自身も、か?」
と、バルバネスが尋ねた。
 「いや。俺が魅力を感じるのは、女の子にだけだ」
「言い切ったな」
「……いや、若い子限定で、熟女はダメという意味じゃないぞ?」
「それは枝葉末節だ」
「何だよ。お前だって、メシと武者修行以外に興味ないだろ」
「まあな」
と答えてから、揚げ足を取られそうな気がして、付け足した。
「……いや、姫のことを忘れているわけではないぞ」
 だが、かえってシドは突っかかってきた。
「うわっ、まさしく二の次、三の次か。姫様、お可哀想になあー。これは、ご注進して差し上げよう」
「バカ、違う!俺が武術の腕を磨くのは、何も、己の名誉栄達が目的じゃない。姫や姉上達、領民達を護りたいがためであって、それはもう、言うまでもない当然の前提ということだ」
「あー、成る程なあ。すると、日がな一日剣ぶん回して、飯食って寝てだけに見えるお前の毎日も、実は是れ全て姫を想い、姫のために捧げていることになるわけか。それはそれで、是非とも姫様のお耳に入れて差し上げなけりゃな」
「それも曲解だぞ。全く、お前はつくづく、そういうことばかり考えているんだな……」
 助け船のつもりか、ダーラボンが話題転換した。
「僕はいつも、魔法研究のことばかり考えてますよ」
「私は、どうすれば若のお役に立てるかを」
と、イスタークも言った。
 バルバネスは笑った。
「少なくとも今のところ、ここにいる四人には、おかしな欲望(もの)が取り憑く余地は無さそうだ」
シドも笑った。
「だな。なまじな大人に頼るよりも、俺達で箱を開けたのは正解だった」
 ダーラボンが思案顔になる。
「うーん、ですけど、正解だったと言えるのは、事件を解決してからですよ。バネス先輩、これからどうしましょう?色々、わかったことや考えついたことはありますが、まだ具体的な犯人像はちっとも見えてきません」
「そうだな……、」
 バルバネスは布製の護符をつまみ上げた。
「レーゲンデ大修道院に行き、受取人との接触を試みよう」
「では早速、私が行って参りますか?」
とイスタークが申し出たが、バルバネスは頭を振った。
 「来るのは代理人らしいが、ここまでの考察から、受取人はそれなりの社会的地位のある人物だと予想される。僕が直接会って、話をしたい。それに、イスタークには別の用事を頼みたいんだ。イグーロスとリオファネスで、他に手掛かりがないか、もっと詳しく調べてきてくれ」
「かしこまりました」
 ダーラボンが、今度は荷袋から筆記用具を取り出そうとした。
「そういうことでしたら、特に確認したい点がいくつかあります。備忘録(メモ)をお渡ししますね」
「ああ、いや、紙に書くと人目に触れる恐れがある。口頭で済ませてくれ。大丈夫だ、イスタークは記憶力がしっかりしているから」
「そうですか。では、後ほど」
 シドが首を捻る。
「ベオルブ家の御曹司自らが乗り出してきて、受取人が素直に現れるかねえ。誰も来なかったらどうする?」
「少なくとも、院長様に心当たりがないか話を伺うことは出来る。リオファネス城に来ていたという異端審問官も、いずれ訪ねてくるのじゃないか」
 するとダーラボンが、片方の手の平に、もう一方の手の人差し指を当てた。
「そのことですが、言い忘れてました。六つ目の可能性に注意して下さい。ゲルモニーク聖典は、超特級の禁書です。つまりその、自分自身で解読するためではなく、誰かを陥れるための罠としての使い方も出来る、ってことですよ。こっそり所持していただけでも謹慎・破門、利用目的によっては国外追放や火あぶりの刑なんてことも……。もしも誰かが、例えばドラコニア伯を失脚させようと目論んでいるなら、異端審問官はいきなり、問答無用でこちらを犯人扱いしてくることもあり得ます。対応には慎重を要します」
「わかった。気を付けよう」
 シドが溜め息を吐いた。
「お前が気を付けたって、相手が聞く耳持たないかもしれないんだろう。しょうがない、俺も付いて行ってやる。ああ、修道院なんぞ男ばっかりでむさ苦しくて、抹香臭くて、何の面白味も無いのに。どのくらい時間かかるんだろうなあ」
「たまには煩悩を断って、性根を鍛え直せ」
バルバネスは笑って、シドの肩を叩いた。
 「と、いうことは、受取人が誰であるにせよ、この書物一式は包み隠さず、自主的に異端審問官に提出すべきなのか?」
「原則的には、そうです」
「ならば、変則的には?」
「……国王陛下に献上すべき、なのかも……。弱味を握るとか、ゆするたかるとか、感心しないですけどね。でも、何らかの事情で、世俗の側に、宗教権力に対する"切り札"が必要なのだとしたら……宗教権力側にみすみす渡してしまったら、僕達"要らんことしい"ですよ。……ふむ、ふむ」
 ダーラボンは額に指を当て、目を瞑って少しの間考えた。
「分けましょう。この荷を、三つに分けるんです」
 再び目を開けたダーラボンは、バルバネスの目の前で実際に荷を分けながら話した。
 まず、布製の護符と、空になった手文庫。
「いいですか?これらは、レーゲンデ修道院に持っていって、人目に付くようにして下さい。箱の中には、別の古本か何か、適当な疑似餌(ダミー)でも入れておけばいいと思います。中身が何かは知らないけれど、何だかこの中に貴重品が入っているらしいぞ……程度の認識の人ならば、こちらに食いついてくるでしょう」
 次に、印刷された報告書の原本と、その対訳本。
「こちらも修道院に持っていってもらいますが、人に見られないように隠しておいて下さい。状況によりけりですけど、本来の受取人か、異端審問官が現れたら、話し合った上で、渡すかどうか判断して下さい。誰がどの程度まで事情を把握しているのか、現時点ではわかりませんが……場合によっては、原本もしくは写本だけ渡せば、充分納得してくれるかもしれませんし、それすら求められないかもしれません。草稿の存在まで知っていて、要求されるのが、一番厄介なんですけど……」
 残るは、手書き帳面(ノート)と、その未完の翻訳原稿だ。
「一番の肝は、この二つです。バネス先輩が最終的に、誰に渡すのがいいか決めるまで、僕が預かりましょう。そして、それまでの間に写本(コピー)を作ります」
 バルバネスは、ダーラボンの顔を見た。
「いいのか?危険だぞ」
「ふふふ……、ご安心下さい!我が家の安全対策(セキュリティー)は万全です!」
と、ダーラボンは胸を張った。
 「ここ、レニ湖畔の別荘も、父自ら設計を手掛けた、魔法カラクリ屋敷といってよい構造でして!外周には祖母が仕掛けた芸術的な(トラップ)の数々!さりげない内装品(インテリア)の中にも、母が厳選したこだわりの警戒・防御装置が隠されていますし。勿論、僕の研究室(ラボ)にも自作の魔法障壁(バリヤー)及び物理的(トラップ)を張り巡らせています。正面玄関以外からの、招かれざる客の侵入など絶対不可能!死角は一切、ありませんっ!!」
力一杯断言するダーラボンに、シドが苦笑する。
「お前んち、家族揃って、そういうの好きだよなあ」
「大好きなんですよー!」
 バルバネスは手を振った。
「いや、刺客や泥棒に狙われないかという、物理的な危険に関しては心配ないとしても。社会的に、ということだ。ゲルモニーク聖典は、私的に写本を作ったり、所持したりすることを禁じられているのだろう。写本でも原本でもなく、草稿だから……というのは、詭弁に過ぎない。むしろ、複数存在する"原本"以上に、手書き草稿の方が重要機密文書のはずだ。取り扱いには一層の危険を伴う」
 ダーラボンは、真剣な眼差しをバルバネスに向けた。
「危険だからこそですよ。もしも、世界に一冊きりしかない本を独占した人が、それを隠滅したり悪用しようとしたりしたら、他の人にはどうすることも出来ないでしょう?写本があれば、現物と全く等価とはいかないまでも、少なくとも内容はほぼ同等に享受出来ます。現物を誰かに渡した後でも、牽制・対抗する手段になりますよ」
 そこまで言って、にこりと笑って見せた。
「大丈夫です。あくまでも、エスト様もおっしゃってた、"周到な準備"の一環ですよ。バネス先輩が何か失敗(ミス)をするんじゃないかって疑っているわけじゃなくて、色々、不測の事態が起きた場合なんかも含めて、上手く事を収めて下さるはずだと、信じてますから。僕、怖くありませんよ。心配しないで下さい」
 シドが卓子(テーブル)の下を覗き込み、
「……。足、震えてるぞ」
と、ダーラボンの足を蹴飛ばした。
 「わあっ!?」
ダーラボンは飛び上がり、頭を掻いた。
「もう、恥ずかしいなあ。バラさないで下さいよ。えーと、その……矢っ張り、怖くないとは言いません。だけど、バネス先輩の力を信じてないからじゃないんです。ただ、先の見通しが立たないから……。怖くは、ありますけど……でも、やれます、やります。ここまで来て、他の人に頼むなんてナシですよ。弱虫だからって、僕を仲間から外さないで下さい!お願いします!」
 深々と頭を下げたダーラボンに、バルバネスが声を掛ける。
「弱虫だとは思わんさ。僕だって怖くなってきた。予想以上の大ごとになりそうで」
「えっ?」
ダーラボンは驚いて、バルバネスの顔を見上げた。
「だがな。昔、プリマ姉上が言ってくれた。怖がらないことではなく、怖くても立ち向かっていくことが、勇気があるということなんだ、と」
 バルバネスは、ニッと笑った。
「ボア、有難う。先行きが全て読めたわけじゃないが、お前のおかげで、僕やシドではとても考えつかないようなことまで、随分と見えてきた」
 シドがぶつくさと文句を言う。
「メシのことしか考えてないお前と同列ってのは、どうもな……」
「ならば、そう言うお前は女のこと以外に何か考えてるのか?」
「そりゃ、考えてるぞ。例えば……。……、どうやってお前をおちょくってやろうか、とか?」
 バルバネスは肩をすくめた。
「これだからな」
 イスタークが思わず吹き出し、
「失礼しました」
と口を押さえた。
 「僕には参謀(ブレイン)が必要だ。手伝ってくれるなら、大歓迎だとも。僕の方から、是非ともそう願いたい」
もう一度、バルバネスはダーラボンに右手を差し出した。
 「はいっ!任せて下さい!」
ダーラボンはしっかりと、バルバネスと握手を交わした。

 四人が"作戦会議室"を出た頃には、正午近くなっていた。
 「お疲れ様!お昼ご飯出来てるわよ。それから、後でボア君の家に持っていく用の焼き菓子(タルト)もいっぱい焼いておいたから。お土産の分と、アナタ達が間食(おやつ)に食べる分と」
 エストが当然の如く言うのを、バルバネスは聞き咎めた。
「……は?」
「バネスとシド君は、レーゲンデ大修道院で荷物の受取人が現れるのを待つんでしょ。イスタークはイグーロスとリオファネスに行って聞き込み調査。それで、細かい打ち合わせのために、今日はボア君の方の別荘に皆で泊まり込み。違う?」
 バルバネスは顔をしかめた。
「エスト姉上、盗み聞きなさっていたんですか!?」
「聞かなくたって、わかるわよぉー。いきなり犯人を特定出来る証拠が出てきたのじゃない限り、そうなるでしょ?行き先が逆って可能性もないではないけど、イスタークじゃ、レーゲンデ大修道院に滞在する"表向きの理由"が無いものねぇ。今更、テンペル先生に呂国(ロマンダ)語を習うってのも不自然なくらいだし。バネスとシド君なら、カイエン師の下で闘気技の修行をするっていう、立派な用事があるでしょ」
 "聖剣技"や"破壊魔剣"等の特殊剣技を修得し、"聖騎士"となる資格を得るためには、修道院等で神殿騎士の師範の指導下、武術の鍛錬と同時に精神修養も積まねばならない。
 「その程度は、アタクシだって考えるわよ。バネスが無理だって言ったら、アタクシが姉様達に協力してもらって、引き受けるつもりでいたもの」
これも当然の如く、エストはさらりと言う。
 ダーラボンが呟く。
「ベオルブ家の"運命の三女神"が本気出せば、向かうところ敵無し、でしょうねえ……」
 プリマヴェーラ、フローラ、エストレーラの三姉妹と、その侍女達の総合力――物理的戦闘力、魔法力、知力、情報収集力等々を足し合わせたもの――を、四人の男子達は、自分達のそれと頭の中で比較計算してみた。そして、四人が四人とも、
((勝てる気が、全くしないっ……!!))
ことに、愕然となった。
 「矢っ張り途中棄権(ギブアップ)したくなったら、いつでも言いなさいねぇー。アタクシがきっちり引き継いであげるからぁ」
「いえ、僕が責任持って、最後までやり遂げます!こちらからお願いするまで、姉上達は手出しなさらないで下さいっ!」
バルバネスは、むきになって宣言した。
 「うふふっ。じゃあ、事件の方は任せたけど、一つお節介を焼いてあげるわ。イスターク、イグーロスに行くなら、フローラ姉様に言伝をお願い出来る?」
「はい、何でしょう」
「フローラ姉様に、ソフィアをここへ連れてきてもらいたいの。しばらく、花嫁修業のためにアタクシ達が預かりたいって、お姉様からソフィアのお母様に頼んで下さらないかしら、って。その方が安心出来るでしょ、バネス?」
 バルバネスは、微妙な困惑の表情を浮かべた。
「いや、それは……。敵の手が及ぶ恐れが無い、という面ではその通りですが……。別の面での、不安が……」
 シドが、思い当たって、ぽんと手を打った。
「ああー、あれか?女三人寄れば、ってやつだ。思い出話に花が咲いて、子供(ガキ)の頃の失敗談なんかが次々と白日の下に……」
「いいじゃないのよぉ、そんなの。使用人達の噂話が回り回って耳に届くよりは、よっぽど恥ずかしくないわよ?」
「それも、ありますが!」
 バルバネスは、エストの両肩に手を置いた。
「くれぐれも、姫におかしな服を着せるのは止めて下さい」
 エストレーラは、自作の衣装を人に着せ付けるのが趣味なのだ。
 「おかしな服とは何よぉ、失礼しちゃうわねぇ。アナタが、美的感覚(センス)がなさ過ぎるんだわ」
 ダーラボンが、世辞にならぬ程度に、婉曲に言う。
「エスト様はいつも、華やかというか、きらびやかというか……斬新なの、着てらっしゃいますよねえ」
「諸事控え目で奥ゆかしい姫に、姉上好みの派手な服が似合うと思う方がどうかしています!」
「じゃあ、フローラ姉様みたいなカワイイ系がいい?」
「フローラ様は……いつも、御伽話的(メルヘンチック)というか……お花模様とか(フリル)とかがいっぱい付いた、かわゆらしいのがお似合いで……」
「幾つになっても、あんな少女(ロリータ)趣味の格好で気後れもせず表を出歩けるのは、フローラ姉上ぐらいです!」
 シドが面白がって、混ぜっ返す。
「いっそのこと、プリマ様のような女武者姿というのも、落差(ギャップ)が意外な色気を醸し出すかもしれんなあ」
「ああ、プリマ様はいつも……男性的(マニッシュ)というか、活動的な凛々しいお姿で……」
「んー、それもいいかも?服は人を作るって言うでしょ、ソフィアはもうちょっと、積極性を身に付けてもいいと思うのよねぇ」
 バルバネスは大きく手を振った。
「やめて下さい、そっとしておいて下さい。姫は今のままが好いです。姫までが、姉上達のような人食い鬼ババの同類になってしまったら、僕は(いえ)に帰りたくなくなります!」
「あらっ、鬼ババとは何よ」
エストは懐に差していた扇子を抜いて、ピシャリと弟の額を叩いた。
 ダーラボンがこっそりと訊く。
「何か、いい音しましたよ。鉄扇ですか?」
霊銀(ミスリル)製です」
イスタークが囁き返した。
 「安心なさいな。別に、アタクシが遊びたいだけじゃなくて……」
「"わけじゃない"のではないのですか」
「そこは否定しないわ。でも、そんなに着せ替えに費やしてる暇も無いのよねぇ、残念だけど。あながち口実でなしに、そろそろ、ソフィアにも色々とベオルブ家のやり方を覚えてもらいたいから」
 ダーラボンが恐る恐る尋ねた。
「あのう、ベオルブ家のやり方というと、まさか……。噂に聞いたんですけど……、夏の今頃、よく、ベオルブ家の姫様、奥方様方が、こちらの別荘に集まって休暇を過ごされますよね。それが実は、和やかにお茶飲み話しに来るのじゃなくて。王家とラーグ公家、それにベオルブ本家周辺の情報を持ち寄って、『あそこの領主は腰抜けだから首をすげ替えてやろう』とか、夜な夜な、怖ーい密談を繰り広げるのが習わし、とかいう……」
「あらヤダ、どこから聞いたのぉ?そーんな魔女集会みたいなコト……」
 エストはフッと、凄味のある微笑を浮かべた。
「してるわよ」
 ダーラボンの背筋がゾーッと凍り付いたところで、
「……なーんて言ったら信じるぅ?うふふっ」
エストはころころと笑い飛ばした。
 「バネス先輩~っ、今のどっちですか!?本気?冗談?」
「ううーむ、僕にもわからん」
 シドも、たじたじとなった。
「そういや、俺も小耳に挟んだことがある。ベオルブ家は、息子よりも娘が多い代に栄える、ってな」
 エストは大笑いして、怖じ気付いている若者達の鼻先を扇子であおいで回った。
「おーっほっほっほ……!何も、取って食いやしないわよぉ。むしろね、アナタに食べさせてあげる方の話よ、バネス。アタクシがお嫁入りして城を離れるまでに、ソフィアにもちゃんと、アナタの好物の料理法(レシピ)は全部伝授しておくから」
「……はあ、それはどうも」
「お父様がわざわざ、お母様を是領(ゼラモニア)に呼び付けたのだって、結局それなんだから。レナリオ伯にやられた傷なんか、もうほとんど治ってるのよ。ただ、体調っていうか、食欲が戻らなくって……『是領(ゼラモニア)の食い物は何でもかんでも塩っ辛くてかなわん』とか、わがまま言ってるんですって。故郷の味が恋しくなっちゃったのねぇ。母様が、食材とか調味料とか、船便でどっさり持ってったから、すぐに元気になるでしょうよ」
 シドが苦笑する。
「矢っ張り、ベオルブ家の男は色気より食い気か!」
「そうよぉ。この子だってね、士官学校(アカデミー)の寮に入ってせいせいしたとか言うくせに、いっつも休みになった途端、ご飯食べに帰って来るんだから」
「姉上……」
バルバネスは決まり悪そうに、エストを小突いた。
 「ふふっ。何だっていいのよ。可愛いお嫁さんが待ってるからでも、美味しいご飯が食べたいからでも、懐かしい山や河をもう一度見たいからでも……。必ず生きて帰るんだ、っていう気持ちが、遠く離れていても、アナタを護るわ。アナタが帰って来る場所を守るのは、もうすぐソフィアの役目になる。でもアタクシだって、地元(ドラコニア)に残って、ずーっとソフィアとアナタを助けていくわよ。何たってアナタは、アタクシ達の自慢の、可愛い弟ですもの」
 妖艶といってもいい美女が腕を絡めて頬に口付けしてきても、平然と――どころか、煩わしそうにしていられるのは、弟なればこそだ。むしろ、傍で見ている若者達の方が、胸がざわついてしまう。
(こいつが色仕掛け耐性高いのって、"麗しの許婚殿"のおかげというよりも……)
(外面天女、内面鬼ババ……ですか??羨むべきか、同情すべきか……)
 バルバネスは、それぞれに傾向(タイプ)の違う、美しき三人の烈女達に庇護さ(しごか)れてきたのだ。
 「可愛がり方が、間違っています」
バルバネスは額の、先程叩かれた辺りをさすりつつ言った。
「しかし、エスト姉上が作る包み焼き(パイ)焼き菓子(タルト)が絶品であることは、認めざるをえません。さっきから、匂いだけ嗅がされているのは苦行に近しいのですが……。早いところ、御馳走して下さいませんか」
「はい、はい。感謝の仕方が、間違ってるわ!」
 エストは、四人の若者達を食堂に案内した。


 ダーラボン先生の講義(チュートリアル)


 ディリータばりの頭脳派ながら、野心のカケラもない。魔法研究とメカフィギュア製作(……えーっと)をこよなく愛する、"ダラ公"君こと、若かりし日のボーアダム=ダーラボン先生です。

 私は最初にプレイした時、リオファネス城の連戦からどうしても抜け出せなくなり、一から出直す羽目と相成ってしまいました……(涙)。ウィーグラフさん、強すぎるよ~っ!!
 レベル連動なので、やみくもにレベル上げするだけでは、対策にならない。サシのガチ勝負だから、仲間を当てにすることも出来ない。あくまでも、己(ラムザ君と、プレイヤーである私自身のテクニック)を鍛えるしかないっ!
 ……初心に返り、ダーラボン先生の講義(チュートリアル)で勉強し直すことにしました。
 わかり易い。攻略本とかよりも、実際に"演習"してみるのが一番ですね。基本のキから、細かい応用技まで、今まで疎かにしていたあれこれが、ゼクラス砂漠の砂地が水を吸い込むが如く(?)染み渡りました。文章だけの知識編も隅から隅まで読んで、今度こそ免許皆伝!……かな??いざ!

 おかげさまで二回目は、バトルも危なげなく勝ち進めるようになり、会話や設定など、物語の細部を味わう余裕も出来ました。
 ボコの(どこかで会ったような……?)という心の声の意味がわかった時は、感動しましたよ!
 こ、これはっ……。呂布の愛馬が関羽に、ラオウのそれがケンシロウにとかいう、あれでしたか!ラムザ君、名馬ならぬ、名鳥にも主として認められる強者だったのですね!うおーっ、ウィーグラフとの対決が楽しみになってきたあっ!!
 ……ってなものです。
 勿論、リオファネス城戦で雪辱を果たすことも出来ました。ダーラボン先生、有難うございます!

 そんな大恩師・ダーラボン先生にも是非ご登場願いたく、ここに一席設けた(?)次第であります。
 父ちゃん世代のエピソードなので先生もまだ少年ですけど、ゲーム中の設定として、温厚な老教官というところが良かったと思いますよ、私としては。士官アカデミーの先生だからって、ビリー教官みたいな陽気なタフガイだったりしたら、暑苦しさに挫けてしまったかもしれない(?失敬!)
 士官候補生達も、きっとそうだと思う。実技の先生方は「君達なら出来るっ!筋肉は決して裏切らない(ムキムキッ)!!それ、あと二十回ーっ!」……ってな調子でしょうから。ダーラボン先生の戦術講義の時間は、貴重な休憩時間、心のオアシスなんですよ。
 ガストンなんかは、後でディリータのノート見せてもらうつもりで、最初っから爆睡でしょう。「えー、知れば自ずとその先が見えてきます……」とか始まる前に、出欠すら代返で(笑)。
 でも、授業中は特に注意しないけど、試験は厳しいのです。「ちゃんと覚えておかないと、死にますよ」とか言って、しっかり身に付くまで何度も追試・補習して下さいます。……そんな感じのする先生です。

 フィギュア製作が趣味、という"何だそりゃ?"設定はですね。
 日頃主に頭脳を使うお仕事に従事している方々には、無心に手作業することが良いリフレッシュになるそうで。ジグソーパズルとか、プラモ作りとか、大人の塗り絵とか、編み物とか……瞑想に近いリラックス効果が得られるそうです。
 ということでダーラボン先生も、大人になっても、休日にはせっせとフィギュア作りに没頭しているのです。そして、教え子達に「えーっ、先生、こういうのお好きなんですか!?」と驚かれたり、娘のマルさんに「多すぎ!片付けてよー」と呆れられたりしつつも、コレクションでいっぱいの部屋に招いてワイワイお茶を飲んだりするのが、くつろぎの一時なんですよ。

 ……なんて、勝手に想像してみたりします(笑)




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 外-《2》 疾風迅雷! ①許嫁の訪問 ~バルバネス、シドに誤解される~ 

《2》 疾風迅雷!

時は五十年戦争の最中、聖歴一一七〇年。
 畏国(イヴァリース)西部ガリオンヌ領、レニ湖畔にて――。

 真夏の日射しは朝からギラギラと眩いが、湖の水面を渡ってくる風は涼しい。
 その風に吹かれながら、一人の若者が、片膝を立てて樫の大木の樹上に寝そべっている。
 目を閉じているものの、眠ってはいないようだ。何度目にか眉間に皺を寄せ、頭を掻きむしると、むくりと起き上がった。くしゃくしゃに乱れた栗色の髪を解き、ふうっと溜め息を吐いてから、また長剣を左腕に抱えて仰向けになる。
 サク、サク、サク……。
 若者の耳に、草を踏んで近付いてくる韋駄鳥(チョコボ)の足音が聞こえた。樫の木の下に来て、立ち止まったようだ。
 「バネス」
若者にとっては聞き慣れた声――ただし、今はあまり聞きたくない声だった。
 「おーい、バーネスー」
 呼び掛けたのは、同年代の、こちらは鮮やかな赤い髪の若者。見習い騎士の風体ながら、剣も衣服も、騎鳥も上等で、裕福な貴族の子弟であることを窺わせる。栗色の髪の若者が無視しているので、もう一度声を張り上げた。
 「バルバネス=ベオルブ!」
 樹の上で寝ていた若者――ドラコニア伯爵家の総領息子・バルバネスは、仕方なく、物憂げに返事をした。
 「何だ?シドルファス=オルランドゥ。こんな朝っぱらから何処に行く……、というより、帰るところか」
「まあな」
「……。この辺り一帯は、うちの領地なんだが」
「ああ、わかってる」
「わかっているのか、本当に?我がベオルブ家の領民に手を出して、もしも泣かせるようなことがあれば、タダでは済まさんぞ」
バルバネスは体を起こしてシドの方に向き直り、剣の鞘でトンと木の幹を叩く。
 シドは手を大きく横に振り、陽気に笑って受け流した。
「いや、いや、心配するな。俺は、女の子を泣かすような付き合い方はしないから。だいたい、昨夜の相手はお前んとこの村のコじゃなくて、ここらの別荘に来てる騎士のお嬢さん……の付き人だ」
「そう、か。民の安寧を守るべき領主の息子としては、安堵した。が、級友として、お前の行く末は大いに心配する」
「おお、心配してくれるのか!持つべきものは良き友だな!」
 バルバネスは嘆息する。
「つくづく、お前は気楽で羨ましい」
「おう、俺は次男だからな。将来の領主の責も、南天騎士団長の責も、優秀な兄貴が一手に引き受けてくれる。お前みたいに年中真面目くさって、『長たる者の務めとはなんぞや?』とか悩む必要もないわけだ。……しかし、そう言うお前だって」
 シドはニヤニヤと笑った。
 彼がこのような表情をする時は、次にろくなことを言い出さない。バルバネスは身構えた。
「何が可笑しい」
「いやあ、喜ばしい。実に喜ばしいと思っているんだ。お前も話の通じる奴だと知って」
「……?話とは、何の」
「そりゃあ勿論、その、アレだ」
と、シドはわざとあさっての方角に視線を逸らした。
 「ソフィア殿は素晴らしい許婚だよなあ。ただに見た目が愛らしく、たおやかなだけじゃない。誰に対しても物腰が柔らかで、心遣いが優しい。
 直にお目にかかるまではてっきり、主筋の姫君だから、お父上の目を憚って自粛しているだけだろうと思っていたが。成る程、お前がそこいらの女に一顧だに呉れんのも宜なるかなと、納得した」
 バルバネスは舌打ちした。
「貴様、まだ言うか。剣術大会の時はよくも……、姫は蒲柳の質だというのに、散々余計な回り道をさせおって」
 つい先月、士官学校(アカデミー)ガリランド校で、全国六校からの選抜選手による剣術大会が開催された。
 バルバネスの許婚であり、幼馴染みでもあるマリーソフィア=ラーグは、病気がちで、普段ほとんど遠出をすることがない。が、バルバネス達が最高学年の今年ばかりは、最後の機会だからと、家族に無理を言って観戦に来ていた。
 ソフィアは、見事優勝を果たしたバルバネスに、すぐにも祝いの言葉を掛けようとした。そこでうっかりと間違えて、準優勝したシドの方の控え室を訪ねてしまったことが、バルバネスにとっての災難の始まりだったのである。
 シドは迷ったふりをして、聞かでもの道を尋ね、行かでもの庭や教室を巡り、多くの学友達にソフィアを引き合わせて回った。ようやくバルバネスの許に辿り着いた頃には、ソフィアは疲れて立ちくらみを起こしてしまい、結局、宿泊先の教会まで、バルバネスが抱えて送っていく羽目になったのだ。
 「いいだろうよ。本来なら、お前自ら見せびらかしまくらなけりゃ勿体ないところだ。姫だって、『バルバネス様が大勢のお友達から良くして頂いているとわかって、嬉しく思いました』……とか、喜んで下さってたじゃないか。感謝してもらってもバチは当たらんぐらいだと思うが」
「何が感謝だ。あれは、それこそ、アホなお前にまで優しい心遣いを見せて下さっただけだな。お前、絶対に、ふざけ半分でやっただろう」
 シドはきっぱりと首を横に振る。
「いや。ふざけ"半分"なんて生半可なもんじゃない。滅多に無い好機を余すところなく活かし、全身全霊、全力で!お前をからかってやろうと思った!」
「胸を張ることか?尚更始末に負えんわ!」
バルバネスは吐き捨てるように言った。
 「はっはっはっ!……と、そんな過ぎた話で誤魔化そうとしても無駄だぞ。俺が言っているのは、昨夜のことだ」
「なっ……!!」
 バルバネスは俄に血相を変えて立ち上がろうとし、手を滑らせて、木の上から転げ落ちかけた。辛うじて、左手で長剣を掴み、右腕と両足で枝にしがみついて、体勢を立て直す。
「見たのか、シド!?」
「ああ、見た、この目でしっかりと見た。昨日、日も暮れかけてから、ソフィア姫がお前のとこの別荘に行くのも。今朝早く帰って行ったのもな」
 バルバネスは、畳み掛けるように尋ねた。
「他にも、誰か見ていた奴はいるのか」
「いや。俺一人で、たまたま通りすがりに見かけただけだ」
「まだ、誰にも話していないだろうな?」
「そりゃあな。てっきり、ベオルブ家の別荘にいるのはお前の姉上だけだと思っていたからな。しかし、お前がいたとなると……、これから言い触らしてやるから、詳しく聞かせろ」
「貴様なぁ……、言い触らすと言われて、はいそうですかと喋るバカがいると思うか?」
「いいや、お前は必ず白状する!動かしようのない事実と憶測を織り交ぜたものを流布されるよりは、事実のみを明らかにした方が賢明というものだ」
 バルバネスは、深く、長い溜め息を吐いた。
「違うんだ、あれは……。断じて、お前が想像するような艶めいた話ではない」
「またまた。隠し立てするな、お前と俺の仲だろう」
「本当に、違うのだ」
「どう違うと言うんだ、ええ?説明してみろ」
 バルバネスはしばし、ぼさぼさと頭を掻き回しながら考え込んだ。それから、一人で何度か頷くと、解いていた栗色の髪を、もう一度首の後ろできっちりと結び直した。
「いいだろう。そこまで言うなら、聞かせてやる。どの道、誰かには話さねばならんと思っていた。登って来い」
と、シドを手招きする。
 「おお、洗いざらい、一切合切聞かせてもらおうか」
シドは韋駄鳥(チョコボ)の鞍から降り、するすると樫の幹を登ってきた。バルバネスの隣に座り、胡座をかく。
 「いいか。これから話すこと、他言無用だぞ」
「おい、おい。話すなと言われれば余計に話したくなるのが人の常……、」
 バルバネスは声を低めた。
「俺は真剣に言っているんだ。下手に秘密を漏らせば、死人が出るかもしれん」
「何?……どういうことだ」
流石に、シドの顔からもニヤニヤ笑いが消えた。
 「お前も、知ったからには、身に危険が及ぶこともあると覚悟してほしい。……それでも聞くか、シド」
 シドは膝を乗り出した。
「ああ。聞かせてくれ」
「よし。ならば話す。実はな……、」
と、バルバネスは語り始めた。

 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

 その前日のことだ。
 西の空が夕焼けに色付く頃、バルバネスはふらりと、レニ湖畔にあるベオルブ家の別荘に現れた。
 「あら、バネス!もう来たの?プリマ姉様が帰ってきてから、連絡を寄越そうと思ってたのに」
と、玄関先でバルバネスを出迎えたのは、三姉のエストレーラだ。
 長姉のプリマヴェーラ、次姉のフローラは既に嫁いでいたが、久々に里帰りをして家族で休暇を過ごそうと約束しており、この別荘で落ち合うことになっていた。
 「いえ、今日はちょっと立ち寄っただけです。狩りに夢中になっていたら、思ったより遠くまで来てしまって。獲物も沢山穫れたことだし、ここまで来たからには、姉上にも差し上げようと。一緒にいた者達は、イスタークにドラコニア城まで連れ帰ってもらいました。僕も明日の朝になったら、一度戻ります。荷物をまとめてから、改めて来ますよ」
 賄い係が、歓迎しつつも文句を言う。
「まあ、若様!さあさあ、お入り下さい、若様のお好きな林檎の蜂蜜漬けもどっさり用意してありますよ。でも、いらっしゃるならいらっしゃると、先に報せて下さいませんと……。若様がおいでかどうかで、お夕飯の量が全っ然違ってきますもの」
「すまない。材料はこっちで用意してきた」
と、バルバネスは自ら仕留めた野兎や山鳥、途中の店で買ってきた麺麭(パン)などを、韋駄鳥(チョコボ)の背から下ろした。
 「時間はかかっても構わない。その間、姉上と茶でも飲んでいよう」
「あ、アタクシには林檎酒(シードル)ね」
「はいはい、只今」
 暫く、居間でエストとよもやま話をしているうちに、思いがけない客の来訪を告げられた。
 「あら、あら。ソフィアまで!どうしたのぉ、こんな時間に?……帰り道の途中で、思ったより早く日が暮れちゃった、ってとこかしら。ここに泊まっていく?」
「え……ええ、はい……。そうしていただけると、助かります」
ソフィアは、そわそわと落ち着かない様子で、歯切れ悪く答えた。
 バルバネスは腰を浮かせた。
「ああ。そういうことであれば、僕はお暇しましょう」
 許婚とはいえ、エスト以外に年長の家族がいない状況で、一つ屋根の下に寝泊まりするのは憚りがあろう――という風に、バルバネスはソフィアの態度を解釈したのだ。
 うら若い娘が出歩くには遅い時間帯だが、まだ真っ暗闇というわけではない。武術の腕に覚えのあるバルバネスならば、今からでも問題なくドラコニア城に帰り着けるだろう。
 ところが、
「ま、待って下さい!」
と、ソフィアはバルバネスの腕にすがり付いて、引き止めた。
「バルバネス様がこちらに向かうのが見えたので、参ったのです。どうしても……今すぐに御相談したいことがあって」
 ソフィアの手が震えていた。
 そういえば、一人しか連れてきていない供の者が、ラーグ公家の騎士や侍女ではなく、修道士なのは珍しい。
 それに、大きく重そうな包みをずっと胸に抱えたままなのも、不自然だ。ソフィアは体が弱いのだから、荷物は全てお付きの者達が持ってやるのが普通だし、そうでなくても、屋内に入ったなら下ろしても良いはずだ。
 バルバネスとエストは、顔を見合わせた。
 「……人払いした方がいいかしらねぇ」
「はい。そのように、お願いいたします」
「姉上は?姉上がご一緒するのは構いませんか」
「そう……です、わね……。エストお姉様にも、聞いていただけたら……」
「ええ、是非聞かせて頂戴。アタクシも一緒に考えてあげるわ」
「有難うございます」
 ベオルブ家の使用人達は居間から出た。が、修道士はソフィアの後ろに立ったままだ。
 「あの、この方は信用出来ます。アピアス修道士といって、わたくしの恩師、クラウス司祭のお弟子さんです」
 クラウス司祭は、イグーロス大聖堂附属の施療院に務める神官医だ。イグーロス大聖堂はラーグ公家の菩提寺でもあり、日頃から一族ぐるみで付き合いが深い。ソフィアも幼い頃から、クラウス司祭に白魔法や薬草学の手ほどきを受けたり、施療院での奉仕活動(ボランティア)に参加したりしてきたのだ。
 「こちらのアピアス修道士が見聞きしてきた情報(ニュース)の中に、何か重大な秘密が隠れているようなのです。わたくしの口から説明するよりも、この場でもう一度、直接話していただいた方がわかりやすいかと」
「あぁ、そういうことなの。じゃあ、立ちっぱなしじゃ疲れるでしょ、貴方もどうぞお座りになって」
と、エストが席を勧めたが、アピアス修道士は遠慮して卓子(テーブル)には着かず、ソフィアの斜め後ろに椅子を持っていった。
 「それで、僕に御相談というのは?」
「はい。それが……、」

 ソフィアはその日、ドラコニア領内のクラバーティン修道院で定期的に行われている、無料診察と炊き出しの手伝いに来た。 普段はおいそれと医者にかかる金もない、貧しい農民達が列をなしてやってくるのである。クラバーティン修道院の者達だけでは手が足りず、他の修道院の修道士達や、医薬の知識がある騎士の夫人や娘達なども協力するのだ。
 疲れやすいソフィアは、他の者達よりも一足先に、休憩を取るために建物の奥へ下がった。その時になって、そういえば今朝から院長と、院長の友人であり毎回ほぼ必ず手助けに来るクラウス司祭に、一度も会っていないと気付いた。
 二人に挨拶しようと探し歩いていると、人目につかない奥まった一室から、ぼそぼそと院長達の声らしきものが聞こえる。ソフィアが扉を叩くと、話し声はしんと押し黙ってしまった。違う部屋からだったろうか、と思い立ち去ろうとした時、扉が少しだけ開いて、アピアス修道士が顔を覗かせた。
 ――マリーソフィア様でしたか!
と驚き、かつ安心した様子のアピアスは、小声で部屋の中に呼び掛けた。
――クラウス先生、お願いしてみてはどうですか。
――いや、姫様では……。ご迷惑になるばかりでしょう。
と困惑するクラウス師の声を聞いて、ソフィアはかえって、聞き捨てならなくなった。
 ――何か、お困りごとでも?わたくしでお力になれそうでしたら、どうぞ仰って下さい。
と申し出ると、クラウスは尚も躊躇していたが、院長の方がソフィアを部屋に招き入れて、すぐに扉を閉めた。
――姫様にお頼みしましょう。事は、一刻を争うかもしれぬのですぞ。
 院長に促されて、クラウス師も決心したようだ。
――では……。折り入って、お話がございます。
と、何やら風呂敷包みを取り出した。
 「それが、これです」
 ソフィアは卓子(テーブル)の上に包みを置いて、開いた。
 中に入っていたものは二つ。
 古びた木製の手文庫と、布製の護符だ。いずれも、呂国(ロマンダ)様式の、複雑な唐草模様のような装飾が施されている。
 バルバネスは、手文庫を手に取ってみた。ずっしりと重い。傾けた時の手応えから、中には複数冊の本が入っているものと思われる。錠前は付いていないが、蓋は吸い付いたようにぴったりと固く閉じて、動かせなかった。
「何か、特別な開け方があるのですか」
「魔法で封印されているらしいのです」
 エストが尋ねる。
「らしい、って……まだ開けてないってコト?」
「はい」
「中身は何なの?」
「わかりません。クラウス先生が、ご友人のシメイ司祭から預かったものだそうですけれど。そもそも、シメイ司祭もご存じ無いようだったとか」
 二週間ほど前の晩、イグーロス郊外の教区教会司祭であるシメイが、こっそりと人目を忍ぶようにクラウス師に会いに来た。知人から預かってきた荷物を、保管してほしいのだという。
 シメイ司祭はその前々日、フォボハム領のリオファネス城から帰ってきたばかりだった。
 城下町を発つ直前に、知人から、ドラコニア領内にあるレーゲンデ大修道院に行く用はあるか、と尋ねられたという。近く立ち寄る予定だ、と答えると、荷物を持っていってくれないか、と依頼された。本当はとっくに届けるはずだったのだが、用事が出来て、彼自身は当分行けそうにないのだと。
 シメイ司祭が承諾すると、託されたのが、件の手文庫だった。誰に渡せばよいか、と尋ねると、さあ向こうも代理人が来るらしいから誰だかわからないが、兎に角、これと同じ物を持っているのが目印だ――と、護符も預けられた。
 その時は、急いでいたせいもあり、何も疑問を持たなかったらしい。
 ところが、教会に帰って間もなく、その知人が急死したという報せが入った。
 溺死だったという。川を渡る途中で"浮遊(レビテト)"の魔法の効果が切れ、流されたのだろう、とのことだったが……、
 シメイ司祭は不審に思った。現場となった川は、彼も知っていたが、橋や浅瀬道(フォード)が何カ所も設けられており、わざわざ"浮遊(レビテト)"の魔法を使う必要も無い。また、使ったとしても、川幅は狭く、渡りきる前に効果が切れるほど時間がかかるだろうか。更には、その知人は泳ぎが達者で、万が一川に落ちたとしても、簡単に溺れるとは思えないのだ。
 事故ではなく、事件なのでは……?
 そう疑い始めると、預かってきた荷物も怪しい。
 交通の便が良くない時代のことだから、旅をする時、ついでに荷物や手紙を託されることは珍しくない。シメイ司祭も、他にも沢山の用件を頼まれていたため、つい確認を忘れていたが……、
 "代理人"とは、誰の?本来の受取人は誰なのだ?また、送り主は知人本人なのだろうか。受取人が荷物の依頼主なのか、それとも、知人も第三者から預かっただけなのか?
 手文庫の中身が何なのかも聞いていないし、開けて確かめようにも、魔法で厳重に封印されている。
 もしや、この謎の荷物を奪う目的で、知人は殺害されたのではないか……!?
 シメイ司祭は取り急ぎ、弔問のため、また荷物の正体を知る手掛かりを求めて、再びリオファネス城に出掛けることにした。
 ――まあ、私の考えすぎだと良いのですが……。念のため、留守の間は、これは別の場所に置いておいた方が良かろうかと思いましてな。
 クラウス司祭も、訝しみながらも、思い過ごしだろうと楽観的に考え、荷物を預かったそうである。
 ところが――。

 「僕は、そういう事情は全く知りませんでした。たまたま、別の用事でリオファネス大聖堂の宿坊に滞在していて、そこでシメイ司祭に会ったんです。一週間ぐらい前……いや、正確には八日前ですね」
と、アピアス修道士が話を引き取った。
 その日の午前中、アピアスは城下町で、魔法用品や薬草の買い出しをしていた。
 フォボハム領は、ラーナー海峡を挟んで呂国(ロマンダ)に近いため、中心都市であるリオファネス城には、呂国からの輸入品が集まる。しかし近年、畏国(イヴァリース)と戦争中の鴎国(オルダリーア)が、畏国との交易を止めるよう、呂国に強く要求していた。
 今日明日にも国交断絶という状況ではないものの、輸入品が品薄になる前に――と、城下町の市場や商店街は、商人はもとより、多くの魔道士や神官、機工士達で賑わっていた。呂国(ロマンダ)は魔学や機工学の先進地で、質の良い魔法素材や製品を他国に輸出している。また、呂国旧教派の学僧達が書写・装飾した本や、手の込んだ毛織物、彫刻の美しい木工品・宝飾品なども、高値で取り引きされていた。
 そんな中、アピアスは一軒の魔法道具店で、見覚えのある神殿騎士の姿を見かけた。
――手文庫と、護符を見せてほしい。
と店主に頼み、全ての品を念入りに吟味しているようだった。
 数日前から、ミュロンド法王庁の異端審問官と、その護衛の神殿騎士が大聖堂に宿泊していることは、アピアスも知っていた。何の目的で来ているか、には興味を持たなかったのだが――、その時漠然と、
(ただの買い物ではなくて、何かの事件の調査中かな)
と思った。
 さて、午後も遅くなってから――※乙女(ヴァルゴ)の刻(午後四時~六時頃)も後半だったろうか――シメイ司祭が大聖堂の宿坊に到着した。
 ――あれ?この前、イグーロスに戻られたと思っていましたが。
――知り合いが、急に亡くなりましてな。
――それはお気の毒に。
――ところで……、異端審問官がいらしていましたが、何か事件でも?
――ああ……、何だかよくわかりませんけど、魔法道具店で、手文庫とか護符とかを調べてましたね。何か、ご禁制品の取り引きの疑いとかですかねえ?
 アピアス修道士は軽い世間話のつもりで言ったのだが、シメイ司祭は青ざめた。
――顔色悪いですけど、大丈夫ですか?
――あー、ああ、流石に疲れが出たようで。この年で、とんぼ返りはきつかったですわい。
 疲れたという割には、せかせかと足早に何処かへ行く後ろ姿を見送ったのが、アピアスが生きているシメイ司祭を見た最後になってしまった。
 翌朝、シメイ司祭は遺体で発見された。
 不審死どころか、明らかな他殺である。ばっさりと、剣で一太刀に斬り捨てられていたのだ。
 リオファネス城の警備隊が現場検証と聞き込みに来ており、アピアスはそこで初めて、亡くなったというシメイ司祭の知人の方も、強盗殺人事件として調査中であると知った。
 最初は不慮の事故だと思われていたのだが、中身を抜き取られた財布や鞄が、遺体が発見されたのとは離れた場所からばらばらに見つかった。そこで改めて検死したところ、転んで頭を打ったのではなく、殴られて川に放り込まれた可能性が高いと判明したそうだ。
 シメイ司祭は昨夕あの後、すぐに、警備隊と異端審問官それぞれに、亡くなった知人から荷物を預かっていると話しに行ったようだ。今は安全な場所に隠してある、引き渡したいが、自分も犯人に狙われるのが怖いので、誰か護衛が一緒に来てくれまいか……と懇願したそうである。
 早速、警備隊の隊士が二人付いて行くことになり、朝の祈祷が終わる頃に迎えに来たのだ。ところが時既に遅く、血の乾き具合から、シメイ司祭は真夜中より前にはとっくに殺されていたらしかった。
 アピアス修道士も参考人として、昨日何か荷物や伝言を預かっていないか、誰かがシメイ司祭に会いに来なかったか、あるいは荷物の隠し場所に心当たりは……等々尋ねられた。しかし、その時は問題の手文庫がクラウス司祭の許にあるとは露知らず、大した情報は持っていなかったので、すぐに放免された。
 友人であるシメイ司祭が痛ましいことになった、とクラウス師に伝えるため、アピアスは本来の用事を早々に切り上げて帰郷した。イグーロス大聖堂附属の施療院に戻ったのは、一昨日のことである。
 そこで、更に驚くべき報せがアピアス修道士を待っていた。シメイ司祭が担当する教区教会が荒らされた、というのである。
盗まれた物は特になく、犯人も不明だが……、アピアスには偶然とは思われなかった。
 シメイ司祭が斬殺されたことを告げると、クラウス師は、
――落ち着いて聞きなさい。……その手文庫は、私が預かっている。
と、アピアスに打ち明けた。
 ――た、大変だ。もう絶対怪しいですよ、危険ですよ、その荷物!早く騎士団に通報しなけりゃ。えーと、イグーロスの?それとも、レーゲンデ大修道院があるドラコニアの?いや、最初の事件があったリオファネスに??
――まあ、少し待った。落ち着きなさいと、言っているだろう。
 事の次第を誰に報せるか、そして手文庫を誰の手に委ねるかの判断は、慎重を要する。と、クラウス師はアピアスを諭した。
 ――仮に、この中に入っているのが、何か禁書の類だったとしよう。必ずしも、それを入手しようとする者が悪で、阻もうとする者が善であるとは言い切れない。あくまでも、例えばの話だが……、
 今のところ、鴎国(オルダリーア)との戦いは、畏国(イヴァリース)優勢で推移している。しかし、もし魔道技術の進歩した呂国(ロマンダ)が鴎国側に付けば、形勢逆転の恐れもあるのではないか、と不安視されていた。
 敵を知り、対抗しようと思えば、呂国の魔道技術を研究する必要があるだろう。ところが、呂国に伝わる精霊魔法や、古代雄帝国(ユードラ)時代の青魔法、召喚魔法等に関する書物は、異教・異宗派の"邪術"であるとして、禁書指定されていることもある。
 もしも、あくまでも"もしも"の話ではあるが、畏国(イヴァリース)軍内部の誰かが、防衛力強化のための研究目的で、貴重な魔道書を秘密裡に入手しようとしたら、どうなるか?
 敵方である鴎国や呂国の間諜(スパイ)なら、人殺しをしてでも奪おうとするかもしれない。
 しかし、だからといって、畏国側の人間なら誰の手に渡っても良いかというと……、
 異端審問官ならば、問答無用で、書物も、入手しようとした者も処分してしまうかもしれない。あるいは騎士でも、競争相手(ライバル)を蹴落とすため、または純粋にグレバドス教徒としての正義感から、糾弾するかもしれない。
 だが、もしもその結果、みすみす呂国(ロマンダ)の魔道技術に対抗する術を失い、多くの犠牲者を出したなら、果たしてそれは"正しいこと"なのだろうか?……
 あくまでも仮定とはいえ、呂国(ロマンダ)との関係に緊張感の高まっている昨今では、大いに現実味のある話だ。
 ――あるいは、何か軍事的・政治的な機密文書であるとか。または、そのように見せかけて誰かを罠に嵌めるための、偽書であるとかいう可能性も、ないとはいえぬ。さて、この中にあるのは良きものか悪しきものか、誰の手に渡すべきものなのか……。神のしもべとして、関わる機会を与えられながら、知らず過ちに加担するようなことがあってはならない。まずは、開けて確かめようではないか。
 シメイ司祭のように、どうせ知らなくても殺されるぐらいであれば、知って身の危険が増すことはあるまい。内容物を知った方が、犯人の正体や目的の手掛かりもつかめるだろう。と、クラウス師は考えたのだった。
 クラバーティン修道院の院長は、若い頃に呂国(ロマンダ)に留学したこともあり、呂国の精密な魔法道具の仕組みなどにも詳しい。
 こそこそと人目を避けて会いに行くのは、かえって目立つだろうと思い、人が大勢集まる無料診察日に紛れて、今朝相談に訪れたところ……、
 「この、箱の六カ所に宝石が付いているでしょう。それぞれが魔法で施錠(ロック)されていて、火水風土、それに光と闇の魔法を一カ所ずつかけると開く仕掛けらしいです。でも、どこに何の魔法をかけるか、区別は全くつかないんですよ」
と、アピアス修道士は説明した。
 「組み合わせは、六の階乗通りか。当てずっぽうに開く確率ではないな」
「それに暗号がわかったところで、ミュロンド正教派グレバドス教徒に許された魔法の中には、風や土属性のものはほとんどないでしょう。畏国(イヴァリース)では、魔法の分類に六元論を採用していませんから」
 雄帝国(ユードラ)時代末期、グレバドス教が国教に定められた頃のことだ。発足して間もないミュロンド法王庁は、異教の神々や精霊と結び付いた呪文・魔法陣等を使用禁止にした。術式は違っても同等の効果を持つ魔法が、グレバドス教圏にあれば良かったが、無ければ代替出来ずに失われてしまい、偏りが生じることになったのだ。
 魔学研究の現場では、魔法は火水風土・光闇の六要素で解析するのが合理的である、という実証情報(データ)が揃いつつある。だが、法王庁が教義と相容れないとして、六元論を認めないため、畏国の魔学水準はどうしても"透明な天井"にぶつかってしまう。
 「呂国(ロマンダ)の精霊魔法とか、雅国(ガンダリア)の東洋魔術とかが使える人じゃないと、解錠出来そうにありませんよ」
「異教・異宗派の魔法でなくては開かない箱、か……。ますます、受取人は只者ではなさそうだ」
「あ。いえ、ただ開けるだけなら、普通のグレバドス教徒でも可能なんです」
「え?」
「六カ所とも"吸魔(アスピル)"の魔法をかけて、仕掛けを全部無効化してしまえば、開けるには開けられるそうです。でも、それは言ってみれば、鍵で錠前を開けるのじゃなくて、錠前自体を叩き壊すような方法ですから……、」
「一度開ければ、閉じられない。開封したことが明らかになる、か」
「はい。それに、この封印は、ただ箱を閉じて中を見られないようにしているだけではなくて。火災や水害、魔法や物理的衝撃等から、中身を保護する働きもあるらしいです。もし、何かどうしても損なってはならない貴重品が入っていた場合、折角の守りの力を失わせてしまってよいものかどうか……」
「ううむ……」
バルバネスは唸った。
 クラウス師も悩んだらしい。誰に渡すべきか判断するためにも、手文庫の中身は知りたい。だが、こうなると、開けてよいものかどうかの判断からして、難しい。
 ――これはもはや、拙僧らの手には負えぬのでは?矢張り、ラーグ家かベオルブ家の、然るべき騎士様にお頼み申し上げるのが筋ではないでしょうか。
と、クラバーティン修道院の院長は勧めた。
 とはいえ、ガリオンヌ領内の主だった騎士達は今、ほとんどが是領(ゼラモニア)に遠征中だ。留守居の者達の中で、誰を頼るべきだろう?
 ……と話し合っている所へ、ソフィアがやってきたのだった。
 勿論、ソフィア自身は、事件を解決するには非力すぎる。が、
 ――姫様は、邪心の欠片もなく、聡明であられる。その姫様の目から見て、最も相応しいと思われるお方に、お取り次ぎ願えませんか。
と、いう話になった。

 「公爵の伯父様も、お父様も、ドラコニア伯爵様もいらっしゃらない今……、一番頼りになるのは、バルバネス様をおいて他にないと、わたくしは思いました」
ソフィアは、ひたとバルバネスを見つめて言い切ってから、自信なさげに目を伏せた。
「あの、ご迷惑でしたでしょうか……?」
 エストが、ヒラヒラと手を横に振る。
「迷惑だなんて、もぅ、全っ然。いつでも頼って頂戴」
「姉上がおっしゃることですか?」
「あら、バネス、迷惑なの?」
「そうではなくて。僕の台詞でしょう」
 口を尖らせるバルバネスに構わず、エストは続けた。
「迷惑ではないけど……、無茶ではあったかしらねぇ。何も、ラーグ公家の姫君が手ずから、こーんな"超絶怪しいブツ"を運ばなくっても良かったんじゃない?報せてくれれば、バネスに引き取りに行かせたのに」
「また。姉上が決めることですか!」
 アピアス修道士が弁解した。
「バルバネス様の居場所がわかれば僕が持っていきます、と申し上げたんです。何か、姫様からの紹介状でも一筆書いていただければ充分です、と。でも、姫様が、どうしてもご自身で持って行くとおっしゃって」
 ソフィアは頭を振った。
「バルバネス様をお探ししている間にも、"この手文庫を狙う何者か"が、追ってきているかもしれませんわ。クラウス師や院長様の身に――そして、この荷そのものに危険が迫る前に、少しでも早く他の場所に移した方が良いと思いました。
 それに、このような重大事をお頼み申し上げるからには、わたくしの口から直接にと」
 ソフィアはもう一度、真っ直ぐにバルバネスを見つめた。
「人を殺してでも奪いたい荷であれば、もっと多くの人の命に関わるものかもしれません。バルバネス様ご自身にも、程度の多少はあれ危難が及ぶことは必定ですのに……、我が身ばかりを傍観者の立場に留めたいとは望みませんわ。
 それに……、それに……。もしかしましたら、ラーグ家かベオルブ家のどなたかが関わっている可能性もあります。事の次第によっては、両家の仲を裂く結果になる恐れも……」
「あー、そぉいえば、あるわねぇ。王家との密約説とか。実際のところは、代々の当主しか知らないんでしょうケド」
 ベオルブ家は、ラーグ家の家臣の中では最有力である。ドラコニア領は、面積にしてガリオンヌ地方の四分の一、税収にして三分の一強を占めるほどだ。ただの筆頭家老というよりも、ほとんど同格の盟友、半独立勢力に近い。そもそも畏国(イヴァリース)において、伯爵位を持ちながら王家の直臣ではなく陪臣なのは、ラーグ公家に仕えるベオルブ家と、ゴルターナ公家に仕えるオルランドゥ家のみだ。
 最重要の共同経営者(パートナー)であるはずなのに、何故かこれまで、ラーグ家とベオルブ家の間には一つの縁組も無かった。バルバネスとソフィアの婚約が、初めてなのだ。
 これに関して、実はベオルブ家の真の主君は王家であって、ラーグ公家ではない――との巷説がある。
 ラーグ公家が王家から分家する際、バルバネスの曾祖父に当たる当時のベオルブ伯が家老として付き従ったが、それは公を補佐するためではなく"監視"するためだった、というのだ。ラーグ公家に謀反の兆しがあれば、ベオルブ家はいつでも王家に呼応してこれを制圧する用意がある、だから両家は馴れ合わぬようにしているのだ――と。
 もっとも、ラーグ公家は王家の分家であり、王家とベオルブ家の間にも昔から幾つかの婚姻関係があったのだから、遠回りながらとっくに縁戚である、とも言えるのだが……。
 「わたくし……、わたくしは……いつでも、何があっても、バルバネス様を信じます。バルバネス様は常に、ご自分の正義の心が指し示す道を、曲げることなく歩み通されると。それは、わたくしの望みでもあります……。それがたとえ、どのような結果をもたらすことになるとしても……、わたくしの心は、いついかなる時もバルバネス様と共にあると、覚えていて下さいませ。……そのことだけは、お伝えしたくて……」
ソフィアは華奢な白い指を固く組み、深い焦げ茶色の瞳を潤ませている。
 「……偉いっ!さっすが!」
エストが嬉々として、ソフィアの細い肩を抱き締めた。
「アナタは体が弱いから武門の跡取りを産むには向かない、とか何とか言う人もいるけど。どうしてどうして、根性据わってるじゃない、逞しいじゃないのぉ。ベオルブ家の嫁はこうでなくっちゃ!ねえ、バネス?」
「エスト姉上……。先程から再三、僕の発言権を侵害しておきながら……!」
「だから、三度目の正直。肝心なことはちゃんと、アナタ自身で考えて、ハッキリ答えなさい。はい」
と、エストは手の平を上向けてバルバネスの方に差し出し、促した。
 「……はい?」
「どうするの?迷惑だと思わないからって、責任能力があるかどうかとは、また別の話よねぇ。自分ではどうにか出来そうもないと思うんだったら、勿論、どうにか出来そうな誰かにさっさとたらい回ししちゃってもいいのよ?」
 アピアス修道士が頬を掻く。
「たらい回し、っておっしゃられると……身も蓋もありませんねえ。そもそも姫様におすがりした僕らも、肩身が狭いです……」
「あぁら、悪いとは言ってないわ。先送りだって、立派な対処法の一つよ。なまじに手出しして余計に事態を悪化させるくらいだったら、そおーっと現状維持して、時間稼ぎして、責任取れそうな誰かに辿り着くまで引き継いでいくのも大事。
 この場合、多分、相手はコトを秘密にしておきたいんでしょうから、コトを秘密でなくすれば――事情を知っている人間が増えれば増えるほど、危険(リスク)は分散されるでしょうよ。ごく僅かの人間で抱え込むより、一人一人の身は安全になるし、解決の糸口も、一つ途切れてもまた別の所に繋がるかも……。ただし、」
 エストは人差し指を振った。
「わからないわよ。
 危険(リスク)を"分散"させるのが正解かどうか、も。一人一人の負担は軽減されるかもしれないけど、人数が増えれば、こっちとしても秘密にしておくのは難しくなるわねぇ。新たな危険(リスク)の種が生まれるわよ。
 あと、実は期限がある話だったら、時間切れ(タイムアウト)任務失敗(ミッションインコンプリート)、だわね。
 だいたい、まさしく蓋を開けてみなくちゃ、自分の力量に見合うかどうかもわからない。なのに、開けたら後戻り出来ない。……そんなの、誰にも絶対の自信なんか持てやしないわ。アタクシだって、無責任に『アナタなら絶対に出来る、大丈夫!』とは言わない。
 それでも、誰かが決断しない限り、先に進めない時はある……。その決断を引き受ける"誰か"になる覚悟があるか、ってコトよ。
 どうなの?バルバネス=ベオルブ」
 コン、と手文庫の蓋を叩いて、エストは挑戦的な目を弟に向けた。
 「……、」
バルバネスは口を開きかけて、ふと噤んだ。
 父も祖父もドラコニア領主として、また北天騎士団団長として、そのような正解のわからない決断を引き受け続けてきたことだろう。自分も武家の男子として、そうするのが当然である……と、言おうとしたのだ。
 だが、ソフィアの心細げな、それでいて一途な眼差しを見つめ返していると、どうも何か違う気がする。

 ソフィアは子供の頃から、度々、こんな目をしてバルバネスを頼ってきた。
 初めは、バルバネスが九歳になる少し前だった。
 田舎道で、しくしくと泣いているソフィアを侍女達が一生懸命に慰めているところへ、たまたま遠駆けに出ていたバルバネスが通りがかったのだ。
 それまでソフィアとは、顔は見知っていても、親しく言葉を交わしたことは無かった。しかしこの時は、元気すぎる姉達とは全く性質(タイプ)の違う"か弱い女の子"が困っているらしいのを、見過ごすことは出来なかった。
 ――マリーソフィア様、どうかなさいましたか。
 韋駄鳥(チョコボ)の背から降りて近付き、優しく声を掛けた。が、人見知りしがちなソフィアは両手で顔を覆って泣き続け、バルバネスの方を見ようとしない。
 ――まあ。ベオルブの若様でしたか。
 侍女達の説明によると、お気に入りのウサギの縫いぐるみを鈍色鷹(スチールホーク)にさらわれてしまったのだという。獲物と間違えて獲っていき、途中で生き物ではないと気付いて放り捨てたなら、もうどこに落ちたかわからない。とても探し出すのは無理だろう。諦めるしかない……と、侍女達はなだめようとしていた。
 だが、ソフィアにとっては、かけがえのないものらしいのだ。寿退職した子守(ねえや)が作ってくれた、幼い頃からの思い出の詰まった品だった。決して高価な素材で出来ているわけではないが、どんな大金を積んでも"代わり"を手に入れることは出来ない、貴重品なのである。
 バルバネスは頭を絞った。
――いや。まだ諦めるのは早い。その縫いぐるみ、何か光る飾り物が付いていなかったか?
 両眼が真珠色の貝殻(ボタン)で出来ており、首にはつやつやした絹地の飾り紐(リボン)を巻いていたという。
 ――矢っ張りな。食べるつもりじゃなくて、巣を飾るために持っていったんだろう。それなら、巣を突き止められれば取り戻せるかもしれない。鈍色鷹(スチールホーク)には縄張りがあって、決まった範囲に巣は一つずつしかないんだ。……よし。
 バルバネスは――本当は主家の姫に対しては無礼な態度だったろうが――ソフィアの頭をぽんぽん、と撫でると、涙を拭っている両手を握って顔から外し、びっくりして丸く見開かれた目を覗き込んで、微笑みかけた。
――大丈夫。僕が見つけて、取り返してきます。安心して、待っていて下さい!
 呆気に取られているソフィアと侍女達を後に残して、バルバネスはすぐに韋駄鳥(チョコボ)に飛び乗り、遠くの空で旋回している鈍色鷹(スチールホーク)を追って駆け去っていった。
 ソフィアはともかく、侍女達は大して期待もせずに、付近の農家の軒先で待つこと※半時(約一時間)余り。
 ――姫ーっ!ありましたよ!!
 駆け戻ってくるバルバネスの姿を見て、ソフィアも侍女達も、村人達も驚いた。
――まっ、若様……!?
 服にはかぎ裂き、手や膝や頬を擦りむいて、頭と左肩には、鋭い嘴でつつかれたらしく、べっとりと血の流れた跡がある。
 取り返すといっても、誰もが、大人達に呼び掛けて手伝ってもらうものだとばかり思っていたのに。たった一人で木に登り、子供用の木剣だけで鈍色鷹(スチールホーク)を追い払ってきたのだ。
 韋駄鳥(チョコボ)の背から地面に降り立ったバルバネスは、意気揚々と、懐から縫いぐるみを取り出した。
――これでしょう。
 片方の目が引き千切られかけ、腕の付け根からは綿が飛び出し、胴体には泥足の爪跡も付いている。
――残念ながら、五体無事とはいきませんでした。でも、この程度なら直せるでしょう。さあ、どうぞ。
 バルバネスは、今度こそ恭しく跪いて、ソフィアに縫いぐるみを差し出した。
 ソフィアはおずおずと両手を差し伸べると、ぼろぼろの縫いぐるみではなく、まだ生乾きの血のこびり付いたバルバネスの頭を、しっかりと胸に抱き締めた。
――本当に……、本当に、有難うございます……!
 ソフィアは感激して、また涙を流した。
 ――騎士の子として、当然のことをしたまでです。
バルバネスとしては、心からそう思って言ったのである。
 だが、後々エストに言わせれば『下心の片鱗すら無い清々しさが、かえって乙女心を鷲掴みにした』ことになり、シドに言わせれば『逆説的に、最強の殺し文句』であったらしい。
 以来、ソフィアはすっかりバルバネスに懐いてしまい、何かにつけ頼りにするようになった。バルバネスの方も、三人の姉達や、ソフィアの侍女達が褒めそやしてくれるものだから、快く求めに応じて面倒を見てやった。
 (どうも、親しくなりすぎたのではないか?)
と、ソフィアの父が危ぶみ始めた頃には、とっくに手遅れだった。
 当時のラーグ家には女子が少なかったため、公爵としてはソフィアも、家臣よりは同格以上の大貴族――バリンテン大公家や王族など――に嫁がせたかったようだ。
 ある時、父に連れられてイグーロス城に来たソフィアに、ラーグ公は
――良い子に育ったな。王妃になっても立派に務まるぞ。
と、上機嫌で声を掛けた。
 ラーグ公は褒め言葉のつもりだったのだが、ソフィアはしょんぼりと項垂れて、押し黙ってしまった。屋敷に戻ってからも、ろくろく食事に手を付けずに部屋に閉じ籠もり、例のウサギの縫いぐるみを抱えて泣き暮らしている有様だった。
 母や祖母、侍女達がひどく心配して、どうにか話を聞き出そうとしたところ、
――王妃になるよりも、バルバネス様の奥方になりたい。
と、小さな声ながらもはっきりとそう言った、というのである。
 ソフィアは大家の姫ながら、大人しく遠慮がちで、普段ほとんどわがままも言わず、物をねだることも少なかった。そのソフィアが、初めて強く主張した願い事が、これだ。
 家中は騒然となった。
 強いて他の縁談を進めようとすれば、拒んで尼僧になるかもしれぬ。いや、それ以前に、日頃から病弱なソフィアのこと、気落ちして体調を崩し、そのまま儚くなってしまうかもしれぬ……。
 ソフィアの父が大慌てで、兄である公爵と、バルバネスの父であるカルダック=ドラコニア伯爵を説得したらしい。ラーグ家とベオルブ家の紐帯を強めることが如何に肝要であるか等、縷々述べ立て、必死で縁組を取りまとめた、ようだった。
 だが肝心の、一方の当事者であるバルバネスの反応は鈍かった。
――えー?婚約なんて、まだまだ早いよ。僕には事前に何の断りもなく、親同士で勝手に決めてしまうなんて……。
と不満そうなバルバネスに、三人の姉達は目を三角に吊り上げて詰め寄った。
 ――勝手に、ってアナタ、近頃ずっとソフィア様と仲良くしてたでしょぉ!?今更、どこが気に入らないって言うのよ?
――いや、別に嫌いでもないけど……。ソフィア姫のことが特別に好きだから親切にしてた、ってわけじゃありませんよ。姉上達だっていつもおっしゃってるでしょう、『騎士なら女の子には優しくしてあげなさい』って。全っ然、そんなつもりじゃなかったのになあ……。
――バネス。いいこと?あちらのお父様の前では決して、口が裂けても、そんなこと言っては駄目よ。本来あり得ないくらい、ベオルブ家にとってこれ以上はないぐらい、とっっっても有難いお話なんですからね。
――そーよぉ。断ったりしたら、お父様同士で決闘になっちゃうかも。『責任取る気もないのに、うちの娘をたぶらかしたのかっ!』とか何とか……。
――また、そんな大袈裟な……。
――いーえー、充分に、あり得ますわねー。あちらのお父様、ソフィアのこと、目の中に入れても痛くなーいくらい、溺愛してらっしゃいますものー。
――え?えぇええぇえっ!?
 姉達に散々脅され、屠殺場に引き立てられる羊になったような気分で、婚約の儀式に臨んだバルバネスだった。
 後になって振り返ってみれば、大貴族同士の政治的関係が、幼女のおねだり一つに左右されるはずもない。ソフィアの言葉は嘘ではないにせよ、誰か両家の縁組をどうしても実現させたい大人が、その逸話(エピソード)を利用し喧伝したのだろう。
 だが、噂は思いのほか遠くまで広まったらしい。
 後年、初対面の王太子にまで、
――ほう。そちが、ガリオンヌ公爵の姪御をして、私の妃になるよりも望ましいと言わしめた勇士か。
とからかわれ、バルバネスは冷や汗をかいたものだ。

 ソフィア自身は素直で可愛らしく、バルバネスも好もしく思っている。
 ただ、
――こうなった以上、ベオルブの若君には立派な騎士となって、姫の目に狂いが無かったことを証明してもらわねばならぬ。
という、周囲からの有形無形の心理的圧力(プレッシャー)が凄まじい。
 また、ソフィアは気持ちの上ではバルバネスに添おうとしてくれるが、体力が無いのは如何ともしがたい。一緒に行動しようとすると、常に無理をさせぬよう気遣って、度々休憩を取る必要がある。
 正直なところ、面倒臭いと感じることもあったのだ。
 けれども、
――僕はソフィア姫の騎士ですから。
とさえ言っておけば、他の女性絡みの面倒事一切から逃れられる――シドが言うには『人生の主菜(メインディッシュ)を食わず嫌いしている!』ということになるらしいが――のだから、我慢もしようか。
 という程度の認識でいた。
 婚約後は特にソフィア本人にも、事ある毎に
――僕は姫の騎士です。姫がお望みとあらば、いつでも駆け付けますよ。
等と請け合ってきたし、それで実際にソフィアの役に立てれば、誇らしくもあった。
 しかし、それとても、純粋にソフィアの喜ぶ顔が見たいというよりは、"高貴な姫君に忠誠を尽くし、武功を立てる"という、騎士道的英雄譚に憧れてのことではなかったろうか。
 今回、ソフィアが自分を頼ってきたのは、"聡明な判断"というよりは、身贔屓、買い被りの類だと思う。
 これは、縫いぐるみ救出劇のような"騎士道ごっこ"では済まない。既に人命が失われた、これから更に失われるかもしれない、本物の"怪事件"だ。
 であるにも関わらず。
 であるからこそ。
 引き受けるか、と問われれば、『己にその力があるか』ではなく、『その力が無ければどうやって手に入れるか』を考えている自分に、バルバネスは気付いた。
 武門の男子として『引き受けねばならない』のではなく、自分を信じ、危難をも共にすると言ってくれたソフィアのために『引き受けたい』と、心底から思った。
 それで充分だった。
 ――それ見たことか。
と頭の片隅から聞こえてくるシドの声を追い出すように、バルバネスは一つ深呼吸をした。
 ソフィアの目を真っ直ぐに見つめ返し、剣にかけて誓う。
「僕もです。僕はいつでも、何があっても、姫の騎士です。姫のご期待に背くことなく、力の限りを尽くす所存でいます」
 騎士道的作法としては、ここで跪いて、手の甲なり衣の裾なりに口付けでもすべきかもしれない。
 だがバルバネスは、子供の頃のように、ぽんぽん、とソフィアの頭を撫でた。
「大丈夫。この一件、僕が確かに引き受けました。ご安心下さい」
「……。はい」
 ソフィアは、今日ここに来てから初めて、愁眉を開き、ほのかな笑顔を見せた。

 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~

 「……ということがあったのだ」
「ふーむ。聞くからにムチャクチャ怪しげな話だ。が、まあ、可愛い許婚の頼みとあっては、断るわけにはいかんよなあ。男のコカン、いや、コケンに関わるからな!……それで?」
と、シドは続きを促した。
 「それで、とは?今のところわかっていることは、おおよそ話し尽くしたぞ」
「いや、お前の話にはまだ、重要な部分が抜けている。ただ事件の相談に来ただけなら、話が終わった後、その日のうちに姫様を屋敷まで送っていっても良かったはずだ。朝まではどうしてたんだ、ん?」
 シドが肘で小突くと、バルバネスはうるさそうに押し返した。
「刺客が追ってきているかもしれんというのに、夜道を帰すのは危険だろう。姉上の部屋にもう一つ寝台(ベッド)を入れてもらって、姫にはそこでお休みいただいた。俺は用心のために、(ドア)の外側に座って仮眠を取るに留めた」
「本当にそれだけか?」
「本当にそれだけだ。アピアス修道士も隣で一緒に番をしていたから、必要とあらば俺の潔白は証言してくれるぞ」
「……何だ、つまらん」
「だから、始めからそう言っているだろう」
バルバネスは、生あくびをかみ殺した。
 「それで?」
「くどいぞ。今度こそ、もう全部話したはずだ」
「いやいや、まだ残ってる。その、謎の荷物の方の話だ。もう開けて中を見たのか?」
「いや。……今、そのことで色々考えていた」
「おいおい、ぐずぐずしてる場合じゃないんだろう。何を躊躇ってるんだ」
「"開けて中を確かめるべきだ"という点に関しては、迷いはない。俺自身で開けられるものならば、とっくにそうしている。だが……」
 シドは、ポンと手を打った。
「ああ。"吸魔(アスピル)"の魔法を使える奴がいなけりゃな」
「俺に魔法は使えない。となれば、箱が封印されていたことを知っている者ならば当然、"誰が開けたのか"を問題視するだろう。何の説明もせずただ封印を解いてもらったとしても、『何も事情は聞いていません、中身も見ていません』……で"敵"が納得してくれるとは思えない」
「だな。だいたい、『中身は絶対見るなよ、開けたこと誰にも話すなよ』……じゃあ、気になりすぎて、かえって誰かに喋りたくなっちまう」
 バルバネスは大きく頷いた。
「そういうことだ。事情を知り、危険も承知した上で、協力してくれる魔道士……となると、誰がいいか……」
「既に関わり合いになってる坊さん方とかは、どうなんだ?」
「クラウス司祭は"吸魔(アスピル)"が使えるそうだ。要請があればいつでも応じる、と約束して下さっているようだが……。だが、リオファネス城で事情聴取を受けたアピアス修道士や、亡くなったシメイ司祭の交友関係から、クラウス司祭までは犯人にも辿られやすいのではないかと思う。しかし、そこからクラバーティン修道院に持ち込まれ、ソフィア姫を介して俺へ……という線は、すぐには突き止められまい。折角"敵"を撒いたのに、わざわざ経路(ルート)を遡るのは下策だろう」
「そうだなあ」
「俺の周囲で探すとなると、真っ先に思い浮かぶのはフローラ姉上だ。が、フローラ姉上はどうも、その、のんびりしていらっしゃるというか……」
「トロくさい」
「あからさまに言うな、失敬だな」
「いや、婉曲に言ったって事実は変わらんだろ」
「……まあ、そうなのだ。普段はその悠揚迫らざる落ち着き振りが頼りにもなるのだが、危急の際に咄嗟の行動が取れるか……となると心許ない。今は乳飲み児も抱えていらっしゃるし、出来ればこちらも巻き込みたくない」
 バルバネスはまた、くしゃくしゃと頭を掻き回した。
「他にも二、三人の候補は思い付くが、一長一短でな。こいつなら間違いない、という決め手を欠く。人の命に関わりかねんのだから、人選は慎重にしなければ……。ああ全く、父上はいつも、どうやって決めていらっしゃるんだか」
 溜め息を吐くバルバネスの横で、シドも腕組みをして考える。
「魔法が得意で……。出来れば、謎解きの役に立つような知恵の回る奴。そして、命懸けになってもビビらない根性がある、か……」
 シドは独りごちた。
「……ダラ公を誘ってみるか……」
「ダラ公?」
「ボーアダム=ダーラボン。俺達より後輩だが、相当に頭がいいのは確かだ。体力はイマイチなくせに、魔法科枠で特別に幼年学校から飛び級してきたぐらいだからな。俺達の"武勇伝"を伝え聞いて、随分と憧れてるらしいぞ。声を掛ければ、喜んで乗ってくるだろう」
「俺"達"、か……。あまり、一緒にされたくないんだが」
 いつの頃からか、純粋に困っている者を見過ごせないだけのバルバネスと、純粋に女性にモテたいだけのシドが、行きがかり上行動を共にする機会が度重なるようになった。士官学校(アカデミー)でも一、二を争う武芸達者である二人のこと、一つ揉め事(トラブル)を解決する毎にますます名声は上がり、気付いた時には
――"あの二人"に頼めば何とかしてくれる。
と、なし崩し的に相棒(コンビ)認定されていたのだった。
 「まあ、まあ。兎に角、実は今、ダラ公のとこの別荘に逗留させてもらってるんだ。昔から家同士の付き合いがあってな。うん、確かあいつ、"吸魔(アスピル)"も使えたはずだ。まずは聞いて確かめてからだが……」
 腰を浮かせかけたシドを、バルバネスは引き止めた。
「ちょっと待て。俺達よりも年下なんだろう。……いいのか」
「いいかどうかは、本人に決めてもらおう。矢っ張り怖いってんなら、騙して開けさせたりはせんさ。年不相応とか言い出せば、だいたい、お前が殺人絡みの事件を引き受ける資格だってあるのか、って話だ。どうせ誰かがやらなけりゃならない、あんまり迷ってる暇もない、って時に、自分からやりたいって言う奴を断る理由があるか」
「ある、かもしれんが……それもまずは、会ってからだな。確かに、有力な候補がいるなら、すぐにも検討したい」
「よしきた。……"斬岩剣(デュランダル)"!」
 シドは、湖の岸辺に水を飲みに行っていた韋駄鳥(チョコボ)を呼び戻した。
 早速木を降りようとするシドを、バルバネスがまた引き止めた。
「おい、待て」
「何だよ。まだ何かあるか?」
「当然のような顔をして参加しかけてるが、お前自身はいいのか?これは、面白半分では済まんぞ」
 シドは不敵に笑った。
「ああ。面白"半分"なんかじゃない。俺はいつでも、全力で面白いことがやりたいと思ってる!
 麗しい姫君の依頼で難事件に挑み、見事解決する……なんてな、騎士の本懐ってもんだろう。こーんな面白そうなこと、俺抜きでやろうってのか?」
「……俺の許婚だぞ?」
「ははっ、心配するな。責任も美味しいとこも、全部お前が持っていけ。今回は、俺は補佐(サポート)に徹する」
 それから、ふと、真顔で尋ねた。
「いや。そりゃあ、総責任者であるお前が、例えばゴルターナ公陣営の者は関わらせたくない……と判断するならば、手を引くぞ。大変残念ではあるが。お前は、俺が加担していいのか?」
 バルバネスは、笑って頷いた。
「ああ、勿論だ。この状況下で、お前が味方してくれるならば、他の誰よりも心強い。持つべきものは良き友、だな」
「おお、嬉しいねえ。お前は真っ正直だから、口先だけの奴に誉められるのと違って、掛け値無しに気分が良くなるぞ。まっ、女の子に誉められるのの十分の一程度には、な!」
 シドは、ほとんど飛び降りるように木から降り、手早く鞍と鐙の革帯(ベルト)を締め直して、韋駄鳥(チョコボ)にまたがった。
「なるべく早く、ダラ公を連れて戻って来る。待ってろ」
「ああ、よろしく頼んだ」
 手を振るバルバネスに、シドは振り返らずに手を挙げて応えると、韋駄鳥(チョコボ)の腹を蹴って速歩(はやあし)で遠ざかっていった。


 ヤング・バルバネスの冒険


 皆様、超お久し振りでございます。
 "マニアック"ブレイブ・ストーリー(苦笑)、こっそりと再開です。
 この間、色々、ものすごーーく色々ありました……(遠い目)……。
 書く時間取れない間も、ネタだけはずーっっと考え続けていたのです。そして、とうとう我慢出来なくなって発作的に書いた(?)のが……何でコレだったのでしょう。自分でも謎です。ブラックボックスからいきなり飛び出した感じです。
 ラムザでも、ダイス兄ちゃんでもなく、若き日の父ちゃんメインのお話。しかも、シド様がチャラくって、何だこりゃあですね。(シド様がどうしてこんな、おにゃのこ大好き軽薄男なのか、につきましては本編Ⅰ-〔5〕-4-①の後書きを参照のこと)
 でも実はこのエピソード、本編にちゃんと関係してくる重大事件で、終盤にシド様の回想として入れる予定でした。だけど考えてるうちに、矢っ張り父ちゃん視点じゃないと難しいなと思い、原始宇宙の揺らぎから一粒の泡がぽちっと独立して、小宇宙を形成したような……??状況です。

 さて、ラムザの父ちゃんこと、バルバネス=ベオルブ様。
 青年時代の見た目は多分、ラムザの髪を栗色にして、一回り二回り筋骨逞しくしたような感じです。真面目な性格とか、どちらかというとダイ兄の方が似てるくらいかもしれません。シド様や姉上達に振り回されているうちに、肩の力が抜けたというか、脱力させられてしまったのでしょうね。ダイ兄にも、誰か振り回してくれる人がいれば(?)もっと変わったろうに……って、まさにそれをこれから、幼き日のラムザがやるんですけど!
 シド様とのコンビは、ラムザ+ディリータとはまた一味違う面白さがありそうです。多分、惚れっぽいシドが女の子を助けるためにトラブルシューティングに乗り出すんですけど、女の子は真面目なバネスの方を好きになってしまい、しかもバネスはあっさり『僕はソフィア姫の騎士ですから(キリッ!)』とか言ってジ・エンド……とかいうのがお決まりパターンなんですよ。
 あと、そのソフィア様。ここまで、父ちゃんエピソードのヒロインはほとんど、ラムザの母ちゃん・ファティマさんの方でした。でも、今回深掘りしてみて初めて、若き日の父ちゃんとソフィア様もなかなかお似合いかもしれない、と思いました。父ちゃんがちらっと言ってましたが、この年頃の父ちゃんには、元気で明るい・でも弱い所もあるファティマより、大人しくてか弱い・でも芯の強い所もあるソフィアの方が、騎士として人生の階段を登って行く上で、強い励みになったかもしれません。
 ……それにしても、ソフィア様の時は、こーんなにベタ惚れされてるのに鈍ちんだったんですね。自分が惚れる側になってみて、少しは反省したでしょうか(笑)。そして、首ったけなソフィア様、『姫様を裏切ったらたたじゃおかない』というラーグ公家の面々、そしてバネスの"騎士として当然"に助けられつつも『姫様が相手じゃ敵わない』と諦めてきた女の子達……とかいう周囲の状況を総合的に想像すると、これは父ちゃん、浮気も再婚も出来ないなあ……と納得しました。なのに再婚しちゃったよ!ファティマさんやラムザの苦労は並々ならぬものだったろう、と改めてひしひしと感じました。

 久し振りに書きながら、ああ矢っ張り、私は小説書くのが好きだなあ……と思いました。私が考えるというよりも、登場人物達が自分から喋って、動き回って、霧の中から新しい景色が見えてくるみたいに、物語が展開していく感じ。自分自身が最初の(で、最後の、になるかもしれない)読者として、出来たてホヤホヤの湯気が立ってる物語を、そうだったんだ!と驚きをもって味わう贅沢感、というのでしょうか。お金になるわけじゃなし、主婦として時間の浪費だろうという後ろめたさもあるのですが、矢っ張りやめられません。
 いや、今回は一応ミステリ風味(本格的、にはならない)ですし。シド様やエスト姉上は、放っとくと色々やらかしすぎてくれそうで怖いし。勿論、作者として引き締めていかなくてはという、自覚はあります。でもまずは、肩慣らしというかもう、リハビリ的に(!?)無理せず楽しむところからと、思っています。

 こんな話ですけど、面白いと思って下さる方が自分以外にもいれば、嬉しいです。以前読んで、感想を下さった皆々様方、いかがお過ごしでしょうか。更新に気付いて、もしまたコメントして下されば、作者はとても、とーっても喜びます。(いえ、初めましてでも勿論大歓迎ですけれど、コレが最初だと、ホントわけわかりませんでしょう。本編序章からお読み下さい……)
 お待ちしております。


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プロバイダもお引っ越し 

雑記

長らくご無沙汰いたしておりました。
 いよいよ、お家が完成して引っ越しです。
 普通はリアルの住所が変わったってネット上のメールアドレスは変わらないのですが、今回はテレビ・電話・インターネット等まとめて光回線に乗り換える都合で、メールアドレスもお引っ越しです。うっかりすると"住所不明"になって、どこかしらのサイトで会員資格が消えちゃったりしかねないので、要注意ですね。FC2でも、運営からのお知らせが不通になると、自動的にブログが閉鎖されてしまうこともあるようです。こちらも抜かりなく引っ越し手続きしていきたいと思います。

 書く時間がない間も、ちびラムザとダイス兄ちゃんの過去話は色々と考えていて‥‥‥、考えてるうちに腕白小僧は兄ちゃんをほったらかして(おい)都見物に出掛けてしまいました。相棒のディリータは勿論のこと、子供時代の"あの人"も参戦して、ちょっとした冒険を経験します。蛇足ですけど、再開第一話はそちらからになるかもしれません。

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"どうせ何も変わらない"は危ない ~選挙にGO!~ 

雑記

超お久し振りでございます。引っ越し準備やら幼稚園・小学校の行事やら、わたわたしているうちに、あっっっと言う間に年末です。小説を読み書きする時間も無くて、ストレス溜まりまくってます。多忙ではありますが、でも、選挙には行く!必ず行きますよ。
 そりゃー私も、学生時代は『誰に入れてもあんまり変わらないだろう』とか思ってましたし、アルバイト時代は土日祝も休みなく働いてて、期日前投票にすら行く暇も無かったりで、かなり棄権もしましたが。結婚して、更に子供も持ってからは、欠かさず投票しに行ってます。法律だの政策だのが日常生活に直結してくるということ、実感しましたから。
 "どうせ何も変わらない"なんて、考えが甘かった。"何も変わらない"="今より良くならない"だけでは済まないんだ。ほっといたら、"何も変わらない"="今より悪くならない"保証すらなく、"今よりもっと悪くなる"かもしれない。いや、"かもしれない"じゃなくて、現にじわじわと悪くなってるよ(少子高齢化とか)!と。
 いわゆる無党派層というやつで、その時々に自分と意見の近い人・政党に一票を投じてきたのですが‥‥‥、今回は選択肢が狭くて結構困ってます。少なくとも、自民党に入れないことだけは確実ですけど!!

 いえ、ね。個人的には、思いっ切り金融緩和の恩恵受けますよ。日銀がガポガポ国債買ってくれるおかげで、フラット35(長期固定金利住宅ローン)の金利が空前絶後(多分)の底値圏で、ほくほくヒャッホー!ですよ。
 でも、こんなの長続きするわけない。後々のことを考えると、おっかなくて変動金利ローンなんか到底組めませんがな。
 私は元々、消費税増税賛成ですし。法人税や所得税は、お形ばかり住所をタックスヘイブン(税金の安い外国)に移すとか、不動産投資するとかいった帳簿上の処理みたいなことで、"違法"じゃないけど限りなく何だかな~?な"節税"が出来てしまいますから。消費税で漏れなく徴収して再配分する方が確実だし公平だろうと思ってます。
 主婦的には、3%ばかしの消費税アップよりも、対ドル1.5倍(いや三分の二というべきか?)近くまで進んだ円安の方がよっぽど個人消費を冷え込ませてると思うぞ。肉類とか小麦粉製品とか、輸入食料品がすっかり高くなった。燃料費‥‥‥、の方は一段落したかもしれないけど。
 一例までに、ご近所スーパーの牛豚合い挽き肉の100グラム価格は、税抜き94円(5%税込み98円)だったのが、さりげなく税抜き98円(8%税込み105円)に上がり、あれっと思ってる間に同108円、一足跳びに118円はスキップして今や128円。3%どころか、三割増し以上ですよ。むしろ消費税増税してもいいから、これ以上円安誘導しないでくれ!って感じです。
 工場の海外移転が進んでるから、円安になっても輸出がそんなに伸びるわけじゃない。まあ、外国人観光客は増えてるようで、小田原・箱根周辺も東日本大震災直後と比べるとかなり客足が戻ってるかな。
 で・も。観光産業で稼ぐつもりだったら、だったで、"御近所さん"は大切にしましょう。ここらでも、"外国人"観光客の大半は中国・韓国からですよ。毎日のようにお城の石段をよちよち歩きで上るにーちゃんに「KAWAII~!!」と声を掛けてくれた人達を"叩き出せ"とは、私は言わないし、言ってほしくないな。

 阿部総理は、ガックリ・ガッカリな言動が多くて、政権発足当初からさっぱり支持する気にならなかったです。もー、色々と‥‥‥。
 例えば。
 「三年間抱っこし放題」とか。『うわっ、このおやっさん全っっ然わかってねえ~!!』でしたよ。
 三年どころか、一年の育休すら取りづらくて、六割ぐらいの人が第一子出産時に仕事を辞めてしまうというのに。マタハラ防止対策の方が先じゃ!それに三年も空いてしまったら、職場環境(人や、仕事に必要な技術)が大きく変化していて、復職する側もさせる側も困るのでは?
 子供の成長過程の面から考えても、育休は半年から一年半くらいで必要充分と思います。昼となく夜となく頻繁におむつを替え、授乳し、抱っこし続けないと泣き止まない‥‥‥とかいうのも長くて生後半年くらいまで。離乳完了する一歳半頃になれば、身体的な基本の世話はあまり手がかからなくなる一方、あんよがしっかりして興味の幅が広がり、遊びに付き合うのがハードになってくる。二歳前後のヤダヤダ期に突入すれば、かえって親だけで抱え込むのは危険なくらい。他の子供達や大人達と積極的に関わらないと、親子ともすごいストレスになると思いますが。
 「福島原発は完全にコントロール下にある」とか。
 そりゃ、きっぱり断言しなけりゃオリンピック誘致は無理でしょうけど。本当に誘致して良かったのか?六年の間に‥‥‥下手するとオリンピックの最中に、また大きな地震とか台風とかきて、汚染水漏れ出したりしないだろうか。貯水タンクは増え続けてるし、凍土壁は失敗したし、そもそも、溶け落ちた燃料を回収する方法さえ未定なのに。稼働再開したり、海外にまで売り込んだりしていいんかい!
 戦争に関しても。
 広島と長崎でスピーチ使い回しとか。
 慰安婦問題の争点すり替えは、女性として不愉快です。
 集団的自衛権行使の必要性を訴える時の、紛争地域から引き揚げる邦人を護衛する米軍艦に協力して云々とか、何そのリアリティの無いシチュエーション、小説でもボツだろ!
 ‥‥‥エトセトラ。
 そして今回の、"アベノミクス解散"です。
 信を問うも何も、世論は再増税延期賛成が多数なのに。日銀のサプライズ緩和を裏切ってまで。予定通り増税するから信を問う、というのであれば、私も敢えて自民党に投票したかもしれないけど‥‥‥。
 今まで、特定秘密保護法も、集団的自衛権も、原発再稼働も、世論では反対多数なのを数の力で押し切ってきたクセにさ。六百億円もかけて、選挙しますか。学校の先生は過労傾向で、本当は雑務は事務員さんに任せるべき、という提言が出てるくらいなのに、年間八十五億円を惜しんで三十五人学級やめようという一方で。ケチる所が間違っとるわー!

 "一強他弱"の上に"政高党低"、それではほとんど"独裁"に近い。じょーだんじゃないって。
 無党派層ナメるなー!確かに野党も頼りないけど、"決められない政治"も困るけど、でも、議論の無いまま憲法改正(改悪といった方がいいと思うけど)みたいな重大法案までフリーパスになるよりはマシ。棄権したら後世、今日が『日本の民主主義の命日』なーんて呼ばれちゃうかもしれませんよ。
 一矢を、もとい、一票を報いに行きますとも。


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"モペラ君"お断り! 

雑記

ここ最近立て続けに、当ブログの内容とは無関係の営業(詐欺?)目的と思われるコメントの書き込みがありました。
 調べてみたところ、七月に入ってからあちこちのFC2ブログ・掲示板を、同様のスパムコメントが席捲中の模様。
 共通の特徴は
・『簡単に大金が手に入る方法があるので連絡下さい』という内容(連絡先メールアドレスが同じ)
・ホストは、いずれもtachikawa.mopera.netのものであること
です。
 うっかりアクセスしただけでウイルス感染したり不正請求されたりしたんじゃたまらないから、自分では実験する気にもなりませんが、どーやら"出会い系サイト"に誘導されるそうでありマス。
 この"モペラ君"(仮)、本当にころころと発信元を変えてくるので、個別にアクセス禁止したりスパム報告したりしてもイタチごっこらしいですね。しかも三日おきとか、毎日でもしつこく書き込まれてるブログもあるらしい。厄介です。
 対策としては、tachikawa.moperaアドレス全般をコメント書き込み・もしくはアクセス自体禁止するのが一番確実なようですが……、すると一方で、悪徳業者とは無縁の一般ユーザーから『書き込めない』『アクセス出来ない』『困った』という声も上がっているようで。
 むむむ、どうしたものか。

 ひとまず当ブログでは、コメントは全て一旦『承認待ち』状態にさせて頂いて、管理人がスパムを取り除いてから『公開』することにいたします。
 ……と書いたこの記事に、『いやいや本当ですってば』とかいうコメントが、しかもtachikawa.mopera以外のアドレスから来ちゃったりしたら、もう……トホホを通り越して、笑うしかないですね。
 "楽して大金持ち"は無理でも、一生懸命に片っ端からコメント投稿したら、アルバイト料でももらえるんでしょうか??(『画像認証必要』の設定にしても投稿されるということは、自動送信じゃなくて手作業ということ!?)ご苦労様すぎます。逮捕される前に、まっとうに稼げるお仕事が見つかるよう、お祈りいたします。
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